Vol.69 ドメーヌコーセイ
味村 興成さん

塩尻のメルロだけを育て
メルロだけを醸すワイン

Vol.69 ドメーヌコーセイ<br>味村 興成さん<br><br>塩尻のメルロだけを育て<br>メルロだけを醸すワイン

桔梗ヶ原メルロと勝沼の甲州
日本のワインを世界へ

1989年、「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー 1985」がスロヴェニア(旧ユーゴスラビア)の首都リュブリアーナで開かれた国際ワインコンクールにて大金賞を受賞したそのとき、味村興成さんは会社から派遣されてフランス・ボルドー大学へ留学中でした。

「受賞後、フランスでワインに関わる著名人やメディアを集めて桔梗ヶ原メルロとボルドーの有名シャトーのワインを比較テイスティングしてもらったり、『ワールドアトラス・オブ・ワイン』に桔梗ヶ原の名を入れてもらうよう著者のヒュー・ジョンソンに働きかけたり、そうやって桔梗ヶ原メルロは世界的に認められていきました」。味村さんは当時を振り返ります。

取材時は摘房の真っ最中。凝縮感のあるぶどうの収穫を目指して、適度に収量制限をかけていく

1991年に帰国後は勝沼ワイナリーで醸造に携わります。勝沼では昔から日本固有のぶどう品種である「甲州」が栽培されていましたが、当時、栽培面積は減少していました。甲州の復活をかけてはじまったプロジェクトで新たに柑橘系の香りが発見され、ボルドー大学との共同研究など試行錯誤を経て「甲州きいろ香」が生み出されました。

味村さんが醸造責任者として2005年にリリースした「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2004」は大ヒットし、高い評価を受けます。「今では甲州が足りないくらいになっています」と味村さんは言います。日本のアイデンティティを世界へあらわすワインを味村さんはつくってきたのです。

本格ワインをつくるなら
長野・塩尻のメルロだった

退職後に塩尻市片丘で「株式会社ドメーヌコーセイ」を立ち上げ、2016年からぶどう栽培を開始、2019年にワイナリーを完成させました。勝沼ワイナリーで21回もの仕込みに携わり、甲府市に自宅をかまえて家族と暮らしていた味村さんが、なぜ「勝沼の甲州」ではなく「桔梗ヶ原メルロ」を選んだのでしょう。

「山梨では甲州が非常に重要です。でも、自分で本格ワインを作るなら長野でした。何を本格とするかは人それぞれだし、世界の市場に打って出る気はないんですが、赤ならメルロ、白ならシャルドネ、世界的に認められている品種といえば、やはり長野なんです」

「私の上司だった浅井昭吾は、コンコードとナイアガラの需要は減ると見越し、五一ワインの林幹雄さんと相談して塩尻の寒さでできるのはメルロしかないと改植を決めました。私は、日本の赤ワインは塩尻が一番だと思っています。私の歳を考えると失敗することはできない。だから実績のあるところで確実にやろうと考えました」。味村さんはそう言い切ります。

そしてメルロのみを栽培し、メルロのみを醸すワイナリー「ドメーヌ・コーセイ」は生まれたのです。

「桔梗ヶ原にはもう借りられる土地がなく、塩尻市からの斡旋もあって、ようやく片丘地区に10カ所の畑を確保しました」。片丘といえば、味村さんの古巣であるメルシャンが新たな圃場を設け、「しののめの道」沿いに幸西ワイナリーが誕生し、塩尻市もワイン新興の地として新たなブランドを確立しようとしています。

畑と同様に、ワイナリーの建設地をさがすのも難航しました。さまざまな条件をクリアして、ようやく現在の地に建てたワイナリーを中心に、畑は半径500メートルの中にあります。

「ブルゴーニュの小さな村は真ん中に教会があって、郵便局や食料品店があって、醸造所と畑がある。ここもそんな規模感なので、ドメーヌとしました。ただし、この町には郵便局とガソリンスタンドしかありませんが(笑)」

現在、13ある畑は合わせて約10ヘクタール、栽培面積にして約5ヘクタールあります。「たくさんのぶどうを収穫したいわけではなく、収量制限をして凝縮感のあるぶどうで良いワインを作りたいんです。私の計算では、ぶどうがちょうど入るタンクが35トン。タンクのキャパも畑に合わせています」

13の畑にはAから順にアルファベットが割り振られ、それぞれの畑にAlive(アライブ)、Beverly(ビバリー)など、頭文字が畑と同じ名のバラが植えられている
タンクは畑に合わせて容量は異なるが、直径を変えて高さをそろえ、バスケットプレスのカゴに合わせて腰高にした
フランス・ブーハー社製の垂直式バスケットプレス。手入れは大変だが、ゆっくり丁寧に搾ることができる

栽培と醸造を託した
若きふたりの女性とともに

チーフ・ヴィンヤード・マネージャーとして畑に立つのが川端志津さんです。松本市里山辺出身の川端さんは、自分の生まれ育った地がワインの産地だと知り、興味をもちます。そして高山村の角藤農園に就職し、栽培に携わっていたところ、味村さんがその腕を見込んで声をかけ、会社設立とともに入社しました。

チーフ・ヴィンヤード・マネージャーの川端志津さんをはさんで立つ五味祐一郎さん(右)と川上鎭一さん。もうひとりを加えた少数精鋭で栽培を担う

角藤農園を辞めてドメーヌコーセイに入るまでの間、3ヵ月ほど自費でニュージーランドの「Kusuda Wines(クスダ ワインズ)」で研修に参加したそうで、川端さんのワインにかける熱意が伝わってきます。話をしながらも伸びすぎた新梢を迷いなく手折っていきますが、畑に立ち始めた当初は、「どこを切ればいいのかすらわからなかった」とのこと。独学で本を読み、あるいは現場で話を聞いて栽培の技術を身につけてきました。

そして醸造責任者を務めるのが北沢美佳さんです。塩尻市出身の北沢さんは、ワイン醸造で知られる塩尻志学館高校で学び、卒業後は松本市の山辺ワイナリーで栽培や醸造に携わっていました。その後、2年ほど信州大学の「千曲川ワインバレー分析センター」で働いていましたが、知人から「すごい人を紹介したい」と言われ、出会ったのが味村さんでした。

醸造責任者の北沢美佳さん。栽培、醸造、そして分析の経験を買われて現場を任された
高さをそろえたタンクにはキャットウォークをめぐらせてある。建屋の天井高もかなりある

ほかからも誘いがあったものの、「味村さんのもとで経験を積みたい」と決意し、ワイナリー完成後に入社しました。「味村さんに倣って『樽熟成』ではなく『樽育成』と呼んでいますが、ビンに入れてしまえば熟成を待つだけ、樽にある間は人が介入できるんです」。メルロ単一とはいえアメリカンオークとフレンチオークそれぞれの樽で「育成」することで、味わいに広がりを持たせています。

2019年に初仕込み、2020年に発売したのは「片丘メルロ」のアメリカンオークとフレンチオーク、「メルロ ロゼ」無濾過 極辛口の3種。2021年は新たなシリーズも発売する

「私がいる間はあえてメルロだけ。若い技術者は、いろいろやりたいかと思うんですが」と味村さんは懸念しますが、川端さんも北沢さんも、メルロだけということにかえって面白みを感じると口をそろえます。

「日本でメルロといえば、ドメーヌ・コーセイだと言ってもらえるくらいになりたいんです」。そんな味村さんの思いに、川端さんと北沢さんほか精鋭スタッフが応えてくれるはずです。

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

味村 興成

あじむら こうせい

1957年、山口県岩国市生まれ。1983年、山梨大学大学院を卒業後、メルシャン(当時は三楽オーシャン)に入社。フランス・ボルドー大学へ留学後は勝沼ワイナリーで長く醸造責任者を務め、「甲州きいろ香」の開発にも携わった。退職後に「株式会社ドメーヌコーセイ」を立ち上げ、2019年にワイナリーを完成させた

Domaine KOSEI

ドメーヌコーセイ

住所|塩尻市片丘7861-1
電話|0263-50-7922
URL|https://domaine-kosei.com

2021年11月14日掲載