Vol.70 GAKU FARM&WINERY
古林利明さん
松本城、北アルプス、松本平
この土地らしさをワインで表現したい

Vol.70 GAKU FARM&WINERY<br> 古林利明さん<br> 松本城、北アルプス、松本平<br> この土地らしさをワインで表現したい

2020年、松本市初のガレージワイナリー誕生

北アルプスから南流する高瀬川、上高地から流下する梓川、木曽谷から北流する奈良井川などの河川が形成する複合扇状地、松本平。
北は大町市、南は塩尻市まで50kmに渡り、ワインの銘醸地である桔梗ヶ原も含まれる長野県で最も広い盆地です。

その盆地の中心、松本市の県道27号線沿いに2020年に開業した、市内初のガレージワイナリー、GAKUFARMWINERY(ガクファーム&ワイナリー)。

北アルプス穂高連峰など、3000m級の山々を望むこの土地で生まれ育った古林利明さんが、妻のいつ子さんと二人で営むワイナリーです。

塩尻ワイン大学の1期生に

古林さんは、東京の大学で電子工学を学んだ後、会社員を経て英語翻訳の仕事につきます。
その後、いつ子さんとの間に新しい命を授かったことをきっかけに、自然豊かな場所で子育てができる地元に戻ってきました。

地元に戻ってからも、フリーランスの翻訳家として仕事を続けていた古林さんですが、顧客は首都圏や海外など遠くにいることが多く、直接会ってやり取りすることが少ないため、手応えがなかなか感じられず、生まれ育ったこの地に携わる仕事がしたいという想いが芽生えます。
そして、生食用のぶどう栽培などをしていた両親が年齢の問題から続けていくことが難しくなり、いずれ受け継ぐ農地を自分がやるかどうかを考えていたところ、塩尻市が塩尻ワイン大学を開講します。塩尻ワイン大学とは、ワイン産業全体の活性化のために栽培技術・醸造技術・経営手法などを習得できる場所。古林さんは、参考になればと2014年、1期生として入学することになったのです。

もともとワインは好きでしたが、学ぶことで栽培、醸造に興味を持ち、両親から受け継いだ生食用のぶどう畑の他に、塩尻市岩垂原でメルローの栽培を始めたのは、入学から1年後のこと。

その後も畑は増え続け、現在70アールの圃場では、メルロ、ピノ・グリ、シャルドネ、ピノ・ノワール、カベルネ・フラン、シュナン・ブラン、シラー、ヴィオニエ、サンジョベーゼなどが栽培されています。

初ヴィンテージは2017年。塩尻ワイン大学で同期だった稲垣雅洋さんが営む、いにしえの里ワイナリーにて委託醸造しました。

201912月に、松本市・山形村・朝日村が「信州松本平ワインシードル特区」に認定されると、その翌年9月に特区を活用してGAKUFARMWINERYを開設しました。

高校時代は生物研究部に所属し、菌類の研究をしていた古林さん。将来の夢は生物学の研究職につくことでした。
「栽培や醸造の仕事は、原点に戻れたという思いと喜びがあります」と目を細め、思わず顔が綻びます。

塩尻ワイン大学の1期生の仲間とは卒業後も定期的に集まって勉強会を開催。お互いに刺激を受け、切磋琢磨する。

なんでも自分でやりたい性格という古林さん。ぶどうを栽培し、醸造して瓶に詰め、販売まですべて自分でおこなうことができるこの仕事がとても楽しいと、微笑みます。
苗木も手に入りにくいため、自分たちでつくっています。2021年の冬は、いつ子さんとお母様の3人で接ぎ木をして苗木を1000本つくりました。
「台木と穂木を接いでまわりを蝋で固めます。その後、一定の温度で温めると2週間ほどで穂木から芽が出てきます。はじめはうまくいかなかったけれど、随分上手にできるようになりました」
目指しているのは、ブルゴーニュのドメーヌ。家族で経営する、小規模ながらも自社畑のぶどうにこだわって良質なワインを醸造するワイナリーです。

この地からどのようなワインができるのか確かめたい

登山愛好家でもある古林さんは、山から流れる源流がつくりだす複合扇状地であるこの土地からどのようなぶどうができ、どのようなワインができるのか確かめるようにワイン造りと向き合い、作業をしていきたいと語ります。

主要栽培品種のメルロは、GAKUFARM&WINERYから近い、車で10分ほどの場所にある、シャトーメルシャン桔梗ヶ原ワイナリーのワイン「桔梗ヶ原メルロー」に憧れて、モデルのひとつにしています。
自社醸造の「Col(コル)メルロ2019」は、ベリーの豊かな果実味と力強いタンニンが感じられるワインになりました。
「Col」とは、山岳用語で「鞍部」(馬の背状の尾根)のこと。山道を登り、ひとつのコルに立ち、また次の山頂を目指すという願いが込められたワインです。


松本平とフランスの北ローヌ地方は同じ内陸性気候ということもあり、夏は暑く冬は寒い、寒暖差が激しいところなどが似ていると感じ、北ローヌの代表的な栽培品種であるシラーやヴィオニエの栽培もはじめました。
「この土地らしさ」の探求を続ける古林さんは、自社畑の横を流れる奈良井川をローヌ川と重ねあわせて想いを馳せます。

自社仕込は2020年から。ブランドマークは穂高岳。ワインにはそれぞれ、Col(コル、馬の背状の尾根)など山岳用語がつけられている。中央のマツモトシードルのラベルはいつ子さんが考案。北アルプス、松本城、雷鳥が描かれています。
オフィス謙ショップに飾られたドライフラワーやオブジェはいつ子さんの手づくり。来訪する時は、事前連絡を忘れずに
季節の花々が彩るガーデン。訪れた日は青や白のあじさいが見事でした

文化と自然が一体となってテロワールができる

古林さんは、夫婦でブルゴーニュ地方を旅したときに、小さなお城や教会がたくさんあり、のどかな田園やぶどう畑が広がる風景を見て、「パリから列車で1時間半という、都市から近い環境にありながら、ブルゴーニュ公国という歴史背景もある。文化と自然が一体となってワインのテロワールができている」と感じました。

GAKU FARM&WINERY周辺も、国宝の松本城や旧開智学校などの文化財が集まる市街地から車で30分ほど。北アルプスの雄大な山々を望む田園風景とぶどう畑が広がります。近くには浅間温泉、美ヶ原温泉、扉温泉ほか、たくさんの温泉地もあり、多彩な自然環境に恵まれています。

「ワインに旅をさせないという言葉もあるように、現地を訪れると、よりいっそうテロワールを感じることができます。松本市街地には、ワインと料理のペアリングを大切にしている飲食店がたくさんありますし、宿泊施設も充実しています。ぜひ松本に来てワインを楽しんでいただけたらうれしいです」と、古林さんは柔らかな笑顔で語りました。

(取材・文/坂田雅美  写真/平松マキ)

古林利明さん、いつ子さん

(こばやしとしあき、いつこ)

利明さんは1958年生まれ、松本市出身。2014年に開講した塩尻ワイン大学の一期生。趣味は登山とカメラ。休みの日は息子さんと一緒に山へ登る。
妻のいつ子さんは沖縄出身。趣味は料理とガーデニング。自分が育てた花でドライフラワーもつくる。
二人のモットーは「無理をしない」。
天気や身体と相談しながら、農薬の使用量をなるべく減らしてぶどうを栽培するなど、こだわりのワイン造りをしている。

GAKU FARM&WINERY
ガクファーム&ワイナリー

所在地 松本市笹賀171-5
MEIL info@gakufarm.jp
URL https://gakufarm.jp/

畑にいて不在の可能性があるので、ワイナリーを訪れる際は事前に連絡をお願いします

2021年11月14日掲載