vol.71 塩尻ファーム ドメーヌ・スリエ
北沢 勝巳さん

地元への思いを込めてつくる
ワインと米粉パン

vol.71 塩尻ファーム ドメーヌ・スリエ<br>北沢 勝巳さん<br><br>地元への思いを込めてつくる<br>ワインと米粉パン

建設業と飲食業に加えて酒造業、二足のわらじが三足に

「塩尻建友」は、土木・建築・水道敷設などを行う建設会社ですが、松本市と安曇野市でカフェ「珈琲哲学」の運営もしています。建設業と飲食業という不思議な業態の会社の代表取締役を務めるのが北沢勝巳さんです。北沢さんが2013年に新たに「塩尻ファーム」という会社を設立し、ぶどう栽培を開始しました。

支柱には電柱も用いた。なかにはNHKの文字が見られるものも

塩尻市は長野県におけるワイン先進地としてぶどう栽培やワイナリー設立が盛んですが、当時は手入れをされぬまま放置され、原野に返ろうとしているぶどう畑が市内各所で目立つようになっていました。北沢さんはその状況を憂え、高齢化によって担い手のいなくなったぶどう畑を引き継ぎ、農地を再生させるためにぶどう栽培をはじめたのです。

苦労の末、再生した畑のぶどうはやがて実ります。ならば自分たちでワインに仕上げるところまで手がけよう、さらにワインに合わせてパンを作ろうと構想を思い描きます。そして、せっかくなら消費量が落ちているお米を活用しようと、地元産の米粉を使ったパンを作ることにしたのです。

かくして2019年にフランス語の「笑顔」を意味する「SOURIRE=スリエ」という名前のワイナリーとベーカリーを開業しました。荒廃農地の再生と、地元産のお米の活用、ふたつの思いを具現したのです。

ベーカリーに併設してワイナリーがある

高校時代の恩師に誘われてワイン醸造の道に

ワイナリーとベーカリーを統括する主任の渡邊康太さんは2016年からぶどう栽培に携わり、今はワイン醸造まで手がけています。きっかけは、母校である塩尻志学館高校の恩師、高山秀士さんに誘われたから。

志学館といえば醸造免許をもつ全国でも珍しい高校ですが、そこで高山さんは30年以上にわたって教鞭を取り、多くの生徒にワイン製造について教えてきました。塩尻ファーム設立時に高山さんは取締役に就任し、ぶどう栽培から関わり、ワイナリー設立後は醸造を担ってきました。2021年3月で一線を退き、今はアドバイザーの任に就いています。「とはいえ、普通に畑にいますけどね」と渡邊さん。

ワイナリーとベーカリーを統括する主任の渡邊康太さん。渡邊さんを含め4人で栽培から醸造まで手がける
長野県産ミズナラの樽もある。ミズナラは通称ジャパニーズオーク。甘くいい香りがする

渡邊さんはというと「高校では食品化学で分析をおもにやっていました。大学は農学部ですけど、醸造はやっていないです」。大学卒業後は警察官になったものの肌にあわず、地元に戻っていたところ、高山さんから声をかけられたのだとか。

ワインにさほどの興味はなかったといいますが、大学在学中に1年間休学してフランス・ボジョレーでのワイン遊学を経験しています。また、2019年には塩尻市の助成を受けてフランス・ボルドーで1年弱、ぶどう栽培からワイン醸造まで学んできました。「働き方は全然ちがいました。日本人ほどがんばらず、適当というか(笑)」。日本人の勤勉さとのギャップを感じたといいます。

畑は現在13、4箇所。1箇所のみ塩尻市市外、あとは市内に点在している

「Revivre(ルヴィーブル、再生)」という名のワイン

自社ワインのブランド名である「Revivre(ルヴィーブル)」は、フランス語で「再生」を意味します。現在はメルロ、マスカットベーリーA、ブラッククイーン、コンコード、シャルドネ、ナイアガラがラインナップしています。

コンコードとメルロは後継者のいなくなった畑を引き継ぎ、マスカットベーリーA、ブラッククイーン、シャルドネは荒廃農地を開墾して新たに植えました。ナイアガラは自社畑を持たず、買いぶどうを用います。さらにピノ・グリ、リースリング、龍眼、カベルネ・ソーヴィニヨン、タナーなど植栽した品種は増えています。

ワインはベーカリー店頭とワイナリー周辺の2店のほか、オンラインショップでも販売している

今は渡邊さんを加えて4人で栽培から醸造まで行います。「人手はちょっと厳しいかな。畑は13、4箇所に点在していて、ひとまわりするだけでも大変です」。コンコードを皮切りに収穫がはじまると、取っては仕込んでのくり返しになるとか。

「販売の方までなかなか手がまわらず、パンの方が先に有名になって、ワインがあることを知られていない」と渡邊さんは苦笑いしますが、モチモチとした食感の米粉パンは人気のおいしさで、きっとワインを牽引してくれるはずです。なかでも自社産の赤ワインが練り込まれ、塩尻産シャインマスカットの干しぶどうが入った「信州ワインブレッド」は、ワイナリーとベーカリーの架け橋のような商品です。

ワインブレッドの仕込み中。赤ワインを練り込み、シャインマスカットの干しぶどうが入った贅沢な味わい
もちもちの米粉パンが人気。「米粉のミルクレープ」や「誉れ」というなの高級食パンも並ぶ

「ぶどうはまだまだ植えたばかりの畑が多くて、熟成させるほどには育っていませんが、いずれは樽熟成をやってみたい。タナーはメルローと混ぜてみようかなと考えています」と渡邊さん。今後の展開がますます楽しみです。

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

北沢 勝巳さん

きたざわ かつみ

建設業と飲食業を営む有限会社「塩尻建友」と、株式会社「塩尻ファーム」の代表取締役を兼任。2013年から塩尻市内の荒廃農地を再生してぶどう栽培を開始。2019年にワイナリーとベーカリーを立ち上げた。

塩尻ファーム DOMAINE BAKERY SOURIRE

ドメーヌ・スリエ

所在地|塩尻市広丘郷原1637-1
TEL |0263-31-0266
URL|https://www.domaine-sourire.jp/

2021年11月15日掲載