相澤和寿さん、佳子さん(工房ぐるり)|木工作家

相澤和寿さん、佳子さん(工房ぐるり)|木工作家

「工房ぐるり」は大町市美麻の森の中にあります。器やカトラリー、カッティングボードなど暮らしの道具を、おもに地元産の広葉樹で作っています。曲がりくねり、枝分かれする木から切り出される材は、太さも長さもまちまちです。そこから生まれる道具はひとつずつ色や形が異なり、使い手にとって、まさに唯一無二のものです。

手前の七寸皿とカッティングボードは自然木の把手がつく。奥の器は木の形を生かし、外側を鉄媒染で黒く染めた。皿の塗装は植物オイルの良さとウレタンの強さを兼ね備え、撥水性があって手入れがしやすく、経年変化も楽しめる。汁気や油分のあるおかずも受け止め、何より軽く扱いやすい。添えたのは、大町市「ノーザン・アルプス・ヴィンヤード」のワイン

上松技専で出会い、美麻で独立

相澤和寿(かずとし)さんは1981年生まれ、静岡県の出身です。高等専門学校を卒業後、工業系の会社に就職するも、本人いわく「1年ちょっとでドロップアウト」。当時をふり返り「規格の中で同じものを作らなければならなくて、何のためにやっているのか、わからなくなってしまった」と言います。
 
「特に何も考えず、流れるままに就職した」という和寿さんは、それを機に自分の生き方を見つめ直し、東南アジアなど世界を放浪するなかで身のまわりの道具を手作りする光景に出会います。そして自分の手で何かを作りたいと志し、2007年に長野県の上松技術専門校に入学します。

仕事場に併設したショールームは自分たちで改装した。小上がりに板を貼り、仕切り壁を作り、壁や天井は塗り直した

佳子(よしこ)さんは1982年生まれ、埼玉県の出身です。武蔵野美術大学で木工を専攻した後、東京の家具工房に勤務します。新築マンションなどに取りつけるフラッシュ家具を量産する激務のなか、体調を崩して退職。「木工は続けたいし、山にこもりたい(笑)」と、2007年に上松技術専門校に入学します。
 
そこで1年間ともに学んだふたりは人生のパートナーとなり、技専を卒業後は静岡県に移り、和寿さんは注文家具工房に勤め、おもに箱物と呼ばれる収納家具を手がけていました。佳子さんは木工小物製作会社に勤務しながら、翌年には第1子を出産しました。
 
2013年、大町市美麻に移住し、和寿さんは古民家改修や大工仕事の経験を積みながら、製作を開始。一方の佳子さんは第二子を出産。2015年からふたりで「工房ぐるり」として活動しています。

木目や色をそのまま生かした木のコーヒードリッパー
自然木の持ち手をつけたマグカップ。ひとつとして同じものはない
自然木の把手がつく平皿は大きさや樹種に各種あり
カッティングボードは材の形を生かして細長かったり、丸みを帯びていたり

身近なものを生かす暮らし

技専や勤務先では家具作りがメインでしたが、今は食器やカトラリー、カッティングボードなどのキッチン用品をおもに手がけています。
 
「注文があれば家具も作りますが、今は小物がほとんです。コツコツ作る方が性に合っています」と和寿さん。大まかな役割分担として、意匠の得意な佳子さんがデザインをおこし、それをもとに切り出した木を和寿さんがノミで削り、最後に佳子さんが磨いて仕上げます。
 
材料は、おもに地元の広葉樹を用います。大町市は林業が盛んですが、建材に用いられるカラ松や杉などの針葉樹とちがい、広葉樹はほとんど売り先がありません。「材としてはいいものなので、林業の方に協力してもらって地元の木を手に入れています」と和寿さんは言います。

取材したのは2022年12月。白樺のサンタが並んでいた
「技専の最初の2カ月はひたすら研ぎでした」と和寿さん
「白樺の木はやわらかく、細工がしやすい」と佳子さん
手に入る材料に合わせて一点ずつ削り出す

また、長野県の県木であり、大町や白馬に自生する白樺の活用が、佳子さんのライフワークです。白樺は70年前後と寿命が短く、生かされないまま倒れてしまうことも。佳子さんは山主の許可をもらって夏に皮をはぎ、冬には1本切り倒して、小物やアクセサリーに仕立てます。

強い光を好む白樺は、やせた地でもよく根づき、寿命は短く、枯れては土に還り、森を育みます。荒地にひとり降り立ち、命を育む姿は女神フレイヤに例えられ、北欧でははじまりと浄化の木とされます。佳子さんは「そのストーリーが好き」だと言います。

ショールームの一角に吊り下げられたランプシェードも木を削り出したもの。テーブルや椅子なども注文があれば引き受ける

「ぐるり」とは、暮らしのまわりにある日用品であり、長く大事に愛されるもの。そして、自然の恵みに感謝して持続可能な循環する暮らしをすること。そんな思いを込めて木と向き合いながら、ふたりは子育てや日々の生活に追われつつも、それぞれ美麻の地に根を張り、枝を広げているところです。

相澤和寿さん、相澤佳子さん
あいざわかずとし あいざわよしこ

和寿さんは1981年、静岡県出身。高専卒業後、会社勤務を経て2007年、上松技術専門校に入学。佳子さんは1982年、埼玉県出身。武蔵野美術大学卒業後、家具工房勤務を経て2007年、上松技専入学。卒業後は静岡県で和寿さんは注文家具工房、佳子さんは木工小物製作会社に勤務し、2013年、大町市美麻に移住。2015年「工房ぐるり」として活動を開始。

作品を購入できる場所

工房ぐるり

住所|大町市美麻14346

https://kobogururi.thebase.in

取材・文|塚田結子  写真|内山温那
2023年01月12日掲載