守田 詠美さん|金工作家

守田 詠美さん|金工作家

守田詠美さんの作る洋白(ようはく)のカトラリーは、使うごとに少しずつ水分や油脂をまとい、美しい銀白色はやわらかく白みがかってきます。適度にやわらかいので比較的、加工がしやすく、守田さんは作る工程すべてを手作業で行います。おのずと個体差が生まれ、手仕事ならではのやさしいゆらぎがあり、経年変化もあって、やがてかけがえのないものになります。

 
日々のごはんに寄り添う洋白のカトラリー

 
守田さんのInstagramは日々のごはんを写す、おいしそうな写真であふれています。魅力的なひと皿に添えられるのは、守田さんが作る洋白のカトラリーです。

洋白とは、亜鉛・銅・ニッケルの合金で、軽くて美しく、丈夫で比較的加工しやすいので、古くから楽器や装身具、洋食器などに用いられてきました。通電性や耐久性、耐食性が高いので、バネの材料や自動車・電子機器などの部品にも使われます。

「真鍮は独特の匂いや味があって、置いておけば変色してしまうのですが、洋白はそういったことがあまり気にならない。ただし洋白は、真鍮より圧倒的に加工はしづらいです」と守田さんは言います。

写真は守田さんのInstagramより

「カトラリーを作りはじめた当初は技術がなくて手を出さなかったんですが、洋白は冷間鍛造で加工できる金属で、硬度のバランスが絶妙。真鍮にはない張りがあって、色味が良く、経年変化するのもいいんです」

高温で加熱した金属を叩いて成形する熱間鍛造に対し、金属を常温のまま加工する冷間鍛造は、寸法精度が高く、表面を美しいまま仕上げることができます。

材料を切り出し、叩き、やすりをかけ、焼きなまして、さらに叩く。守田さんはそのすべてを自宅 兼 工房の一室で、手作業で行います。

「手間はかかるので決して安くはないんですが、比較的若い人も、自分のためのカトラリーとして購入してくださいます」。そうした人は器と同じように、カトラリーにも手仕事の魅力を感じているのでしょう。

切断した金属板を叩いて伸ばし、必要な幅を出していく
 
ものづくりが好き、食べることが好き

 
守田さんは、富山大学の芸術工学部で金属工芸を専攻し、大学卒業後は上京してジュエリーの営業職に就きました。会社勤めをしながらアクセサリーを作り、クラフト市などに出展したり、馴染みのお店に納めたり。

やがてカトラリーをつくりはじめたのは、学生の頃から足を運んできた「クラフトフェアまつもと」で手作りの暮らしの道具を目にし、自身もものづくりが好きだから。そして、食べることが好きだから。

やがてカトラリー作家として独立し、2019年には馴染みのあった松本市へ移り住み、自宅 兼 工房 兼ショールームをかまえました。お客さんとして、そして運営スタッフとして関わってきたクラフトフェアまつもとには、作り手として参加するようになりました。

図面を引いて型紙とする。納得のいく形にたどり着くまで試作を重ねる
切断して叩いた板に型紙を貼り、フォークの歯1本ずつを糸鋸で切り出す
金属板をギロチンで切断。小柄な守田さんは踏み台に乗って体重をかける
たくさんの木槌や金槌を使い分け、叩いて伸ばしたり成形していく

 
守田さんが作るカトラリーの変遷を見れば、形は洗練され、精度は高まっていることがわかります。しかし最近、仕入れていた洋白板が廃盤となり、材料の変更を迫られました。規格が変わったことで制作方法や道具も変更が必要となり、模索は続いているといいます。

今では人気の金工作家として各地のギャラリーなどに出展する一方で、守田さんが愛してやまないシュウマイを普及する自称シュウマイ伝道師として、シュウマイ作りのワークショップを行っています。

ものづくりと食べること、どちらも大切にする守田さんが作るカトラリーは、すっきりと無駄のないデザインが美しく、表面や形に個々の表情があり、工業製品にはない、やさしいゆらぎがあります。手にすれば軽く、絶妙な厚みと形が料理の風味を損ねることなく、器から口へと運んでくれるのです。

守田 詠美さん
もりた・えみさん

1990年生まれ、富山県氷見市出身。富山大学 芸術文化学部で金属工芸を専攻。学生時代からクラフトフェアまつもとに足を運び、運営に関わるようになる。大学卒業後は東京でジュエリー業界のBtoB営業職に就き、会社勤めをしつつカトラリーを作りはじめ、やがて作家として独立。2019年から松本市在住

作品を購入できる場所

ショールームPICNIC
場所|松本市城西(JR松本駅から徒歩15分)
https://www.instagram.com/morita_emi_/
訪問の際は事前に相談を

取材・文/塚田結子 写真/平松マキ
2024年03月10日掲載