阿部 春弥さん|陶芸家

阿部 春弥さん|陶芸家

ともすれば冷たく硬質な印象を受けるばかりの白磁ですが、阿部春弥さんの器は、やわらかく伸び伸びとした大らかさを感じます。端正な器は、ひと目で魅了され、使えばどんな料理も美しく引き立て、何より丈夫で、やがて食卓に欠かせぬ存在となります。

伸び伸び大らかな白磁に、ルリと黄磁も加わって

阿部さんの屋号は「三窯」。そしてご自身のブログでは「ちゃわんや」と名乗ります。「僕がつくっているのは、あくまでも生活用品なので、たいそうな名前をつけたくなかったんです」と阿部さんは言います。

「三」という字の成り立ちは、算木(さんぎ)という道具を重ねた様を表し、「積み重ねる」という意味を持つそうですが、そういえば「三」の字は、お皿を重ねたようにも見えます。そして器づくりは、細かな作業の積み重ねでもあります。

阿部さんのつくる器は、型に押しつけて成形する「輪花」、文様が浮き上がる「陽刻」、カンナで削り出す「しのぎ」あるいは「面取り」など、ひと手間もふた手間もかかるものが多いのですが、「同じ作業をくり返すことに、まったくストレスがない」と阿部さん。

愛知県の窯業高等技術専門学校で作陶を学んだあと、阿部さんは備前焼の陶芸家に師事します。備前焼は、成形した器に釉薬をかけることなく窯に入れ、土と炎の作用によって思いもよらぬ焼き上がりを得ます。窯にゆだね、どう変化するかが焼き締めの醍醐味です。<br />
それよりも、完成形を想像し、そこへ向けて順に仕上げていくやり方が自分の性に合っていると感じ、独立後は白磁へと転向しました

白磁というと硬質でなめらか、耐久性があって扱いやすいのですが、冷たく繊細な印象を受けがちです。しかし阿部さんのつくる器は、やわらかな大らかさがあります。薄すぎない程よい厚み、かすかな釉薬のたまり、しのぎや陽刻などに丁寧な手仕事が見て取れ、温もりが感じられるのです。何より軽くて丈夫とあって、毎日の食卓に欠かせぬ存在となります。

先頃、新たに加わったのが、ルリ釉と黄磁です。ルリは器屋の主人から、黄磁は料理人から、こんな器をつくってはどうかという助言があったそうですが、なるほど。どちらも盛りつける食材を選ばず、深みのある藍色は、ひとつあるだけで食卓をぐっと引き締めます。そしてあたたかな黄色は盛り映えがして、食卓に華やぎを添えます。<br />
阿部さんも「色のバリエーションができて、食卓に動きが出るようになりました」と語ります。

今や作品展のスケジュールは途切れることなく、ファンは増える一方の阿部さんですが、独立してしばらくは売り先もなく、つくった器を抱えて店を一軒一軒訪ねてまわったといいます。

今でも新たな器ができるたび、取引のあるお店には必ず見せに行くそうですが、訪ねる数日前から気分が滅入るほど緊張するとか。こうしたコツコツとした積み重ねが、今の阿部さんを形づくっているのです。

ロクロで引いて型に押しつけ、半乾きのところをカンナで削る。このあと素焼き、施釉、本焼きと工程は続く
棚にいくつもの石膏型が並ぶ。生き生きとした陽刻の線描も魅力だが、特に絵の勉強をしたことはないという
陶磁の原型職人だった妻の美香さんとの合作。動物シリーズの箸置きもラインアップに加わった
輪花の器は形も大きさも豊富な展開。食卓がぱっと華やかになる存在感(写真は阿部さん撮影)
阿部 春弥
あべ はるや

1982年、上田市真田町生まれ。愛知県立窯業高等技術専門学校を終了後、備前焼の陶芸家、山本 出氏に師事。2004年に独立し、地元に窯を築く。

作品を購入できる場所

わざわざ

住所|東御市御牧原2887-1

電話|0268-67-3135 

http://www.waza2.com

取材・文|塚田結子  写真|阿部宣彦
2015年12月25日掲載