vol.4 スイス村ワイナリーあづみアップル
内方 知春さん

安曇野の地から
世界に誇れるワインを目指す

vol.4 スイス村ワイナリーあづみアップル<br>内方 知春さん<br> <br>安曇野の地から<br>世界に誇れるワインを目指す

地元安曇野産ぶどうで
ワインを仕込む

目の前に北アルプスの美しい山容が迫るのどかな田園風景のなかに、あづみアップルスイス村ワイナリーはあります。ここで醸されるワインは、ほぼすべてが地元産のぶどうを原料にしています(ごく一部に飛騨高山産のヤマブドウを使用 )。自社畑のある安曇野市三郷地区や契約農家が支える池田町青木原、最近では大町市にも畑は広がっています。

アルプスを見晴らすワイナリー

なかでもソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールが、すでに樹齢20年を越す成樹となり、豊かな実りをもたらしているのは特筆すべきこと。醸造責任者を務める内方知春さんは、これらのぶどうが持つ可能性にひかれて、長年務めた塩尻のワイナリーから移ってきました。

「このあたりにソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールがあること自体、すごいことだと思うんです。日本では、まだあまり栽培できていない品種ですから」

当初、自社畑は30アールほどでしたが、シャルドネとピノ・ノワールの作付を徐々に増やし、そこに竜眼も加え、今では1.5ヘクタールほどにまで広がりました。「ビン詰めしてる人たちもみんな、晴れたら畑に出ますよ」と言う内方さん自身も、可能な限り畑に出てはぶどうの手入れをします。

「自社畑では、自分たちの思うように栽培ができるし、細かい管理ができます。それから自分たちでつくったぶどうを、自分たちで仕込んでワインやジュースをつくるという面白みがあります」

4月中旬のあづみアップルの醸造室
この時期に、事前に仕込んでおいた果汁を発酵させている

ジュース、シードルも
そしてスパークリングワインも

あづみアップルでつくられるのは、ワインだけではありません。社名に「アップル」がつくのは、農協のりんご加工施設を前身としているから。工場にはジュースづくりのための設備が整い、りんごだけでなく、ぶどうやトマトのジュースもつくられています。

「ワインは9月から11月に仕込んで、タンクに貯蔵します。その発酵管理と並行して、12月から3月まではジュースの生産ラインがほぼ毎日稼働しています。8月の1ヵ月間だけトマト、あとはぶどうとりんご。ごくわずかですが、桃もジュースにしています」

ワイナリー併設のショップでは、試飲をしながらワインやジュースが選べる

そして、りんごといえばシードル。ふじ、紅玉、王林、つがる、シナノゴールド、シナノスイート、ピンクレディーという品種ごとに7種のシードルがつくられています。「きちんとそれぞれのりんごの味がしますよ。これだけの種類が揃うのは、うちくらいではないでしょうか。それだけりんごが豊富なんです」と内方さんは言います。

さらにシードルづくりの技術や設備を生かして今、取り組んでいるのがスパークリングワインです。「シャルドネとピノ・ノワールのロゼと、ロゼではめずらしいメルローでもつくってみました。ぶどうがいいので、うまくいけばいいのができると思います」と内方さんが言うメルローロゼのスパークリングワインは、二次発酵を終え、静かに熟成のときを重ねています。

逆さに置いたボトルを揺らしながら1/8ずつ回転させる「ルミアージュ」という工程を経て、オリが少しずつビンの口元へと集められていく
販売および広報責任者を務める石澤喜則さん

国際レベルを視野に
オンリーワンを目指して

良いワインをつくるため、ぶどうづくりと並んで欠かせないのが「人づくり」だと内方さんはいいます。「うちには今、醸造系の専門はひとりもいませんが、みんなワインに興味をもって働いています。そういう若い人たちをいかに育てるかを考えています」

そこで取り組んでいるのが、高校生にワインづくりに興味を持ってもらうための実習授業です。近くにある南安曇農業高校と連携し、ワインづくりの技術を教えたり、企業実習生を受け入れています。

内方さんが生徒たちに何より伝えたいのは、ワインづくりの面白さだと言います。「畑仕事をやって、工場で加工をして、それを売る。それがすべて自分たちでできる。ワインづくりはまさに六次産業です。気候や土壌のこと、分析、設備など、幅広い知識が必要です。さらにワインアドバイザーやソムリエといった資格取得のための試験もある。いくらでも勉強することがあるけど、それだけやりがいもあります。ワインは全部が自分たちの責任でつくられるもの。大変だけど、だから面白いんです」

地元高校との連携には、地域の人にもっと安曇野のワインに興味をもってほしいとの思いもあります。周辺はりんごの産地としては知られているものの、この地でぶどうが作られ、そのぶどうによって醸されたワインが高い品質を誇ることを、地元の人は意外と知らないと内方さんは言います。

「ここでとれたぶどうからつくったワインが、ここにあるんだよ、ということをもっと知ってほしい。もっと地元の人に飲んでほしいです」

そんな内方さんがつくりたいワインとは。「これは秘密なんですが」と前置きをして、ぶどうの品種ごとに、目標とする国内外のワインメーカーの名を挙げてくれました。国際レベルに基準を置いたそのイメージは、どこまでも具体的です。

「遥かに及ばないのはあるんですけど、ソーヴィニヨン・ブランとかシャルドネは、なんとかいけそうかなと。ここでしかできない、オンリーワンを目指しています」

すべては理想とする確かな1本のため。その足は安曇野の地にしっかりとつけながら、その目は世界を見据えています。

ラベルには眼前に連なる北アルプスの山並みがあしらわれている
安曇野の春、芽吹きの様子を確認する内方さん
(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

内方 知春

うちかた ちはる

1965(昭和40)年生まれ、東京都出身。信州大学工学部卒業。2005(平成17)年より工場長および醸造責任者を務める。

スイス村ワイナリー 株式会社 あづみアップル

所在地 〒399-8201
    長野県安曇野市豊科南穂高5567-5

TEL   0263-73-5532
URL  あづみアップル

2013年07月03日掲載