Vol.12 たかやしろファーム
武田 晃さん/岩波 秀之さん
 
この地で飲むワインを
この地でつくる
地元で愛されるワインを

Vol.12 たかやしろファーム<br>武田 晃さん/岩波 秀之さん<br> <br>この地で飲むワインを<br>この地でつくる<br>地元で愛されるワインを

農家が立ち上げたワイナリー
試行錯誤のワインづくり

中野市の北東にそびえる高社山(こうしゃさん)は、またの名を「高井富士」、地元の人には「たかやしろ」と呼び親しまれています。この名を冠した「たかやしろファーム&ワイナリー」は、2004(平成16)年に地元農家4軒の共同事業として立ち上げられました。

そもそもはワインメーカーから市に対して原料供給できないかという打診があり、酒類卸業で勤務経験のあった武田晃さんが相談を受けたことがきっかけでした。「ワイン用ぶどうの栽培をするんだったら、自分たちで地域の特性を生かしたワインをつくった方がいいんじゃないか」、そして「自分たちがつくった果物を加工できるように」との思いがありました。

高社山を見晴らすぶどう畑

4軒の農家はいずれも巨峰、りんご、桃など果樹栽培の専業農家でしたが、ワイン用ぶどうの栽培ははじめてのこと。「生食用のぶどうは、肥料をくれたり水をくれたり、どこで摘芯するとか、ちゃんとしたシステムのなかで県の指針もあってやりやすいけど、ワイン用は手探り状態。いつどうやって花が咲くか、受粉するかもわからない。畑をきちんとするまでに何年もかかりました」

現在、自社畑は約6ヘクタール。栽培品種は、白がシャルドネ、ケルナー、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど、赤がメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ツヴァイゲルト・レーベなど多岐にわたります。

「ドイツ系はそれほどいいのができなかったけど、シェーンベルガーはうちあたりの標高400メートルくらいのところでも香り豊かなワインができた。土地と気象条件に合うかどうか。最低10年やってみないとわからない。そのなかでどうやって改植してくか…」。試行錯誤は今でも続いているのだと武田さんは言います。

畑近くの十三崖(じゅうさんがい)は、天然記念物のチョウゲンボウの営巣地
高社山南麓に広がる自社農園のぶどう。一帯は巨峰の産地としても知られる

地元にワインを根付かせ
ワインの文化を広げるために

販売においても試行錯誤は続き、現在は軸足を「地元」に置きます。販路拡大には武田さんの元営業マンとしての経験と、地元での人脈が生きました。

地元の人に親しんでもらうため、価格は極力おさえました。「まわりに聞いたら2000円くらいまでなら出せるって言うんで、1500円前後を目安にしています。品質的には3、4000円のワインにも劣りませんよ」

そこには生産者としての努力が欠かせません。栽培においては生食用の果実が、加工においてはジャムとジュースが売上の多くを占め、ワインとの収支を合わせます。すべては「地元にワインを根付かせるため」

「中野市の人口が4万5000人弱。そのうち半分が飲める人口だとして2万5000人いるわけだ。ひとり1本飲んでくれれば、うちのワインは終わる。わざわざ東京とか、どっか持ってく必要ねえわけだ。1年に1本さえ飲んでくれればいいんだけど、それが飲まねえから困る(笑)。それでもうちみたいに地元できちんと売っていくワイナリーが出れば、ほんとのワイン文化は広まるし、商品も伸びていくと思います。最初は経営が大変だけどね」

2013年の国産ワインコンクールで「たかやしろシャルドネ・スパークリング信州中野2012」が銅賞を取るなど、ワイナリーの名は全国に知られるようになりました。しかし「地元志向」の姿勢は変わりません。「うちは販売の約60パーセントは地元です。地産地消と言いますが、地元の食事と地元でつくったお酒が一番合うはずでしょう」

ワインは1000円台を主に、4000円代までの求めやすい価格帯がそろう
ワインのほか、ジュースやプリザーブタイプのジャム、シードルなども人気

「画期的だよ、メルローとシャルドネを
覚えてもらったんだから」

ワイナリー設立からもうすぐ10年。この頃になってようやく地元にワインが定着したという実感があるといいます。「最初の頃は、このへんの農家のおっちゃんやおばちゃんに『メルローってなんだ、このしびらっこいの(渋いの)』なんて怒られた。『おい、シャルドネの赤くれや』とか『メルローって白だっけ』とか言ってくるわけだ。最近は『シャルドネは白の辛口なんだ』とか、みなさんに覚えられた。画期的なことですよ」

醸造担当の岩波さん

毎年開催しているボジョレーヌーヴォーの会でも、地元の人は新酒には目もくれず、欧州品種を目指してやってくるようになったといいます。そして「おみやげといえば『じゃあ、たかやしろのワイン持ってけや』と言ってもらえる。結婚式の引き出物としても、当たり前のように使ってもらえるようになった」のだと武田さんは言います。

「こないだも区の懇談会に行ったら、そこで会った人が『おら、この頃、お前んちのワインしか飲んだことねえや』って言うんです。『バーベキューやればお前んちのワインだ』って。うれしかったですね」。地道な積み重ねが、確かに結実しているようです。

武田社長
(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

武田 晃

たけだ こう

1954(昭和29)年、新潟県柏崎市(旧刈羽郡高柳町)出身。東京農業大学農学部農業経済学科卒業。サントリーフーズ(株)、長野キリン販売(株)を経て、1996年に就農。ワイナリー設立に携わり、有限会社たかやしろファームの代表取締役を務める。

岩波 秀之

いわなみ ひでゆき

1961(昭和36)年、神奈川県横浜市出身。山梨大学工学部発酵生産学科卒業。森永製菓(株)、高畠ワイナリー、スイス村ワイナリー「あづみアップル」に勤務した後、たかやしろファーム設立時より参加、醸造を担う。

有限会社 たかやしろファーム

所在地 〒383-0007 長野県中野市竹原1609-7
TEL   0269-24-7650
URL  たかやしろファーム

2013年11月21日掲載