vol.74 マルカメ醸造所
北沢 毅さん、井口 寛さん

曽祖父の代から受け継いだ果樹園で
兄弟でつくるシードルとワイン

vol.74 マルカメ醸造所<br>北沢 毅さん、井口 寛さん<br><br>曽祖父の代から受け継いだ果樹園で<br>兄弟でつくるシードルとワイン

りんごの産地、松川町で4代にわたる果樹農家

「フルーツガーデン北沢」は、りんごの産地として知られる松川町のなかでも、1942(昭和17)年創業という古い歴史をもつ老舗の果樹園です。
曽祖父の代から続くこの畑を、3代目の北沢公彦さんとともに4代目の毅(つよし)さん、寛(かん)さん兄弟が切り盛りしています。

「ひいじいちゃんの代からのもある」というりんごの木は、記録が残っていないので定かではありませんが、古いものでおそらく樹齢70年ほど。
近年「高密植わい化栽培」の進むりんご畑とちがい、子どもがかくれんぼのできそうな大きなりんごの木が、ゆったりと枝を広げています。

「しっかり根を張らせた大きな木からりんごをつくった方がおいしいと考えているので、木の間隔は5、6メートル取っています」と毅さん。
6割がふじというりんごは20品種ほどあり、ほかにプルーンやなしが植わり、最近ではぶどうの畑も加わりました。

「最近ではこのあたりでも耕作放棄地が増えてきて、担い手がいないからと頼まれてうちで引き受けた畑がいくつもあります。それをおもに自分と弟の寛と、両親と嫁さんと、あとは80歳過ぎのばあちゃんも一緒に、家族でまわしています」

りんごの売り先のほとんどは得意先への直接販売で、あとは来園者が自ら収穫します。
「収穫時期になると、ひいじいちゃんと軒先で一緒にお茶を飲んでいたお客さんが『ほしいから買ってくわ』と。それが観光果樹園のはじまりです。収穫の時期だけテントを立てて、父の代で今のような売店に建て替えました」

売店は3代目である父の代で建て替えた。ここでシードルやワイン、ジュースなどを販売している
「ひいおじいさんの植えた木もあります」という古い木で樹齢60年から70年ほど


4代目の兄弟がはじめたシードルづくり

曽祖父から受け継いだ農地は、やがて観光果樹園として多くの人が訪れるようになりました。そしてジュースやドライフルーツなど加工品に加えて、毅さんと寛さんが新たにはじめたのがシードルとワインづくりです。

醸造を担うのは弟の寛さんです。大学卒業後、長崎県の五島列島でスキューバダイビングのインストラクターをしていた寛さんはお酒造りに興味があり、2016年に松川町が「ワイン・シードル特区」の認定を受けた頃、帰郷を決めました。

毅さん(右)と寛さん。寛さんは結婚して井口姓を名乗るようになった

一方、兄の毅さんは、いずれ家業を継ぐことを前提に、まずは見聞を広げるために証券会社の営業職を3年半勤めました。今でも果樹園の営業は毅さんが担います。
「畑は一緒にやりつつ、酒造りは弟、営業は自分という役割分担は最初からできていました」と毅さんは言います。

畑に合わせて決めた醸造設備は「2019年が3000本、2020年が4000本。これでキャパオーバー」
「自分たちでガブガブ飲むのを夢見てたんですが、なかなか気軽に自家消費できない」と毅さん

寛さんが伊那市の「カモシカシードル」で修業を積むと、自家醸造はいよいよ具体的に進みはじめました。そして加工施設の一角に醸造スペースを設け、畑に合わせてキャパを決め、設備を整えました。
「1年間のうち、ここが稼働するのは、おもに収穫が終わってひと段落する12月下旬から4カ月間。生のくだものがあるうちにしか仕込みはしません」

2019年11月に醸造免許を無事取得し、そしてむかえた12月。初仕込みを行いました。

初仕込み、初出品で受賞の快挙

りんごは自社栽培を中心に、すべて松川町産を使います。「MARUKAME CIDER」は甘口と辛口があり、どちらもふじ、王林、ピンクレディ、はるか、グラニースミスの5種をブレンド。
辛口はさっぱりとしたドライな飲み口で、甘口は飲みやすくやわらかで、どちらも酸味がキリリと際立ちます。

「MARUKAME CIDER」のシリーズはほかに、発酵を初期段階で止めて低アルコールにおさえた「瓶内一次発酵」の 甘口、シナノスイート・シナノゴールド・秋映・紅玉・陽光をブレンドした「SHINANO BLEND」の甘口・辛口、洋梨のラ・フランスとバラードをシードルと同じ製法で仕込んだ「洋梨スパークリング」があります。

7銘柄が基本のラインナップ

さらに、自社栽培のコンコードとブラッククイーンで仕込んだ「MARUKAME WINE」甘口のスパークリングワインを加えた7種がラインナップします。
スパークリングワインはぶどうをひと粒ごとに選別し、丁寧に仕込んだ自信作です。果実味たっぷりで、さわやかな甘味と酸味のアクセントを、やさしい泡が包みます。

「手にした人が農園を思い出してくれるように」と、ラベルには農園から見える南アルプスの山並みを映し取った
「農園に来てシードルを手にしてほしい」。ヤギも農園入り口にて待つ

ジャパン・ワイン・チャレンジが主催するシードルの国際コンクール「フジ・シードル・チャレンジ2020」では、「MARUKAME CIDER」の甘口が銀賞、辛口が銅賞を受賞しました。初仕込み、初出品での受賞は、まさに快挙でした。
さらに2021年も、同じく甘口の銀賞と辛口の銅賞に加え、低アルコールタイプの甘口が銅賞を受賞しました。

さて、当連載ではこれまで松川町のワイナリーを2軒紹介しています。信州まし野ワインVinVie(ヴァンヴィ)、そしてマルカメ醸造も合わせ、徒歩15分の圏内に3軒のワイナリーが近接します。
いつか世の中が落ち着いたら、この3軒をめぐってそれぞれのお酒を味わいたい。そんな夢もふくらむのです。

(取材・文/塚田結子 写真/清水隆史)

北沢 毅さん、井口 寛さん

きたざわ つよしさん、いぐち かんさん

北沢 毅さんは1991年生まれ。証券会社で営業職に携わった後、家業を継ぎ、広報・営業を担当する。井口 寛さんは1993年生まれ、ダイビングインストラクターとして勤務した後、家業を継いで醸造を担当する。

南信州 松川 マルカメ醸造所

マルカメじょうぞうしょ

所在地|下伊那郡松川町大島3347

TEL0265-36-2534

URLhttps://www.marukamecidery.com/

2022年02月07日掲載