Vol.11 いよいよ醸造の勉強もはじまりました

Vol.11 いよいよ醸造の勉強もはじまりました

発酵のメカニズムや科学的要因を踏まえて醸造する

今回の講師はVol.4でもお世話になった、フランス国家認定ワイン醸造士の若生ゆき絵さん。これまでは栽培などについての講義がメインでしたが、ワインの醸造の授業もはじまりました。

ブドウの成分は、醸造によって主に2つの変化を生じさせます。ひとつは「アルコール発酵(AF)」。これは酵母の働きにより糖分からエタノールを生成するものです。もうひとつは「マロラティック発酵(MFL)。乳酸菌の働きによりリンゴ酸が乳酸に変化するものです。

口で説明すると簡単!? ですが、発酵はものすごく複雑で、いろいろな反応が混ざりあうなかで、さまざまな2次生成物を生み出し、ワインの香りや味わいに関与していくのです。

どの培養酵母を使うのか、あるいは自然酵母を使うのか、酵母の選択によってもできあがるワインは違ってきますし、そういったメカニズムや科学的要因を踏まえて醸造に取り組むことが大切です。

そして、健全なブドウを健全に発酵させることで良いワインが造れることを学びました。しかしトラブルはつきもの。だからこそ、人間の病気と同じように「原因・予防・治療法」を知り対処する方法も教えていただきました。こうしたことをふまえて、実際の醸造研修をする前にまずは頭で考えてから…なかなかの難しさです。

品質向上の為に添加物を使える知識をもつ

2限目はSO2についてです。 SO2とは二酸化硫黄。亜硫酸ともよばれ、ワインの添加物として使われています。 傷ついたブドウの保護や好ましくないバクテリアの発生を抑制する効果、抗菌作用や抗酸化作用、香味成分の溶出作用などがあります。 このように醸造過程で必要なものなのですが、日本では使用上限が350mg/L以下と定められています。

自然派ワイン「ビオディナミ」「ビオロジック」と呼ばれるワインにも使用が認められていて、定量を越えなければ人体への影響はないといわれています。しかし多く使用することは風味への影響もあるので好ましくはありません。 使用量を減らせるよう、健康な状態で収穫することと、なるべくphが低くて酸味の多いブドウを使うこと、そして施設や機械を清潔に保つことが大切になってきます。

日本では酸化防止剤無添加ワインとういものも売られていますし、亜硫酸あるいは添加物というと聞こえが悪く、「体に悪いもの」と捉えられてしまうこともあります。 体への影響等、健康については諸説あるのでここでは触れませんが、きちんとその効能や影響を理解したうえで、品質向上のために適切に添加物を使える知識を養うことが大切ですね。

ワインを造る側の立場でテイスティング

続いての授業は、同じく若生さんによる「味」についての授業です。

食卓やレストラン、友人との食事のなかでワインを飲むときは「おいしい」「好みじゃない」「甘い」「酸っぱい」などの感想を言いながら楽しめばいいのですが、醸造に携わるとなると味について理解しなくてはなりません。

人間の感じる味覚は「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「旨味」の5つといわれています。 (「辛味」や「渋味」は温覚や痛覚とされ、味覚の基盤となる基本味とは分別されます)

ひとくちに甘味といっても、人間が甘いと感じる物質はいくつかあって、その違いにより感じ方も違います。 今回は「物質による感じ方の違い」と「濃度による感じ方の違い」を学ぶため、まずは味物質の基本を勉強してから、4種類のテイスティングを実践しました。

【甘味】1.ブドウ糖(グルコース)2.果糖(フルクトース) 3.ショ糖(スクロース) さらに濃度3g/L と 12g/Lを比較

【酸味】1.酒石酸 2.リンゴ酸 3.乳酸 4.クエン酸 5.酢酸 さら濃度0.15g/L と 0.6g/Lを比較

【苦味】カフェインの濃度 0.2g/L と 0.6g/Lを比較

【渋味】タンニン酸の濃度 0.2g/L と 0.4g/Lを比較

私も、ソムリエの端くれなのでテイスティングの基本は知っているつもりでいましたが、種類や濃度によって、こんなにも感じ方が違うのですね。

テイスティングの目的はワインに対して、どんな立場であるかによって違ってきます。今までの自分の立場はできあがったワインを仕入れて提供する側であり、テイスティングはお客様においしく飲んでいただくことや、あるいはコルク臭や熱劣化などを確認して悪いものを出さないようにするためのものでした。今回はワインを造る側としてのテイスティングを意識して行いました。

まずは初期段階の味わいから、どんな手段でイメージした仕上げに持っていくか考えることが求められます。またできあがったワインに欠点があれば、見逃さずにその対処方法を探ることが求められます。たとえばワインが酸っぱくなってしまったときは、どの酸が原因なのか突きとめるために、各物質の味わいを細かに知っておくことが大切だということを学んだ時間でした。

著者

成澤篤人

シニアソムリエ
1976
年長野県坂城町出身。イタリアンレストラン「オステリア・ガット」ほか長野市内で3店舗を経営。NAGANO WINEを普及するための団体「NAGANO WINE応援団運営委員会」代表。故郷・坂城町にワイナリーをつくるため、2015年春からアルカンヴィーニュ内に設置された日本初の民間ワインアカデミー「千曲川ワインアカデミー」で第1期生として学びます。

日本ワイン農業研究所
アルカンヴィーニュ ARC-EN-VIGNE

ARC」は「アーチ(弧)」を意味し、人と人をワインで繋ぐという寓意を込めています。フランス語で虹のことを「アルカンシエルARC-EN-CIEL」(空にかかるアーチ)といいますが、その「空CIEL」を「ブドウVIGNE」に代えて、名づけられました。ブドウ栽培とワイン醸造に関する情報を集積する、地域のワイン農業を支えるワイナリーとして、また、気軽に試飲や見学ができ、ワインとワインづくりについて楽しく学び、語り合うことができる拠点です。

http://jw-arc.co.jp

2015年09月30日掲載