岡澤悦子さん|陶芸家

岡澤悦子さん|陶芸家

岡澤悦子さんの工房は、アカマツが点在する落葉樹の林のなかにあります。落ち葉の舞う音が聞こえる、静かな工房でつくられた涼やかなその器は、飾り気のない自然体な岡澤さんそのままです。

忙しい毎日でもすっきり気持ちよく暮らしたいから
この形、この色、この素材

「もうすぐ納品できたのに、この間の地震で器が割れちゃって、今あわててつくり直しているの。一番大変だったのは窯ね。ヒビが入ってしまって」。そこで、なんでもまず自分でやってみるという岡澤さんは、自分で窯を直しました。しかし、どこかで空気がもれていて、思うように器が焼けなかったのだそう。職人さんに頼んだら完璧に直ったということで「やっぱり職人さんはすごいわ」と、笑います。

工房に伺ったこの日は、長野県神城断層地震がおきてから10日後のこと。安曇野は震度3で、揺れも長く続いたので、道具が倒れたり器が割れたりしてさぞ大変だったことでしょう。それなのに「大きな地震は3度目だから、こっちも慣れてきて今回は早くリカバーできたわ」と、豪快に笑いとばします。岡澤さんのつくる器はどんなお料理にも合うと評判で、おおらかな性格が器にも表れているようです。

岡澤さんは、主に白い釉薬をかけた陶器をつくります。料理に合うだけでなく、お花を生けても、キャンドルを置いても様になるという、使い勝手の良い器です。そのうえ、かたくて丈夫。ファンの間では大変な人気で、お店に卸してもすぐに完売してしまうそうです。

ちょうど窯出しをするところだった、ということでその様子をみせていただきました。はじめに出てきたのは、「マグカップ(ラテ)」です。少し大振りで口の広いこのカップに、湯気のたったカフェラテを注いだら、それだけでとてもあたたかな気持ちになりそうです。

続いて、1枚1枚ヒビがないかなどを確認しながらケーキ皿を取り出していきます。「お客さんからケーキ皿をつくってほしいという依頼を受けたのだけど、息子が小さい頃によくホットケーキを焼いてあげていたからそのイメージが湧いてきちゃって」と、お子さんとの思い出に顔をほころばせます。新作のインスピレーションは、そんなところにもあるようです。

お皿は、毎日の食卓で活躍するようにと、戸棚からの取り出しやすさを追求し、お皿の間に手が入れやすいように、指1本分が入る高さの高台をつけています。また、数枚重ねて運んでもあまり重くないように、1枚1枚を軽くしています。

「伊藤さんと、電子レンジにも食洗機にもかけられる、作家の器があってもいいよねっていう話になったの」。親交のあるスタイリスト伊藤まさこさんとの会話から、陶器の持つやわらかい印象を残しつつ、電子レンジや食洗機に入れられる丈夫な器が生まれました。

試行錯誤を重ね、瀬戸の半磁器を選ぶことで、やわらかい印象と強度という、ともすれば相反する2つの性質を両立させたのです。岡澤さんのつくる器は丈夫で使い勝手が良く、どんな料理にも合わせやすい、まさに普段使いの器です。

「最近は、期日までに決まった個数をつくって納品する作業ばかりになってしまっていて。それだけではお客さんの顔が見えないし、お話もできないから、工房を今よりもう少しリフォームして、年に数回販売を兼ねてアトリエを公開したいな」と夢は膨らみます。

「あづみアップル」のメルローロゼと冷蔵庫にある材料を使って、あっという間につくってくださったホットワインを「マグカップ(ラテ)」に注いで
自宅兼工房。住宅街より1段あがった林のなかにある。現在、工房をリフォームして展示スペースをつくり、年に数回販売を兼ねてアトリエを公開したいと構想中
ろくろを挽くと、粘土がねじれる。持ち手はそのねじれを読んでまっすぐになるようにつけ、成形後に乾いたら微調整する。「指跡など、なまなましさが残るのはあまり好きではないので」と、丁寧に削る
愛猫「ニャーさん」と。「お客さんが大好きで、ずっとそばにいるのよね」。普段は息子さんの部屋にいて出てこない。取材の間中そばにいて和ませてくれた
岡澤 悦子
おかざわ えつこ

陶芸家。1969年、長野県松本市生まれ。石川県立九谷焼技術研修所にて1年学び、松本へ帰郷。結婚と出産を機に作陶を中断。2006年、ガス窯で作陶再開。2013年、安曇野市に移り住み、工房を構える。

作品を購入できる場所

岡澤さんの公式ホームページより、展示会・納品情報をご覧ください

http://okazawa-etsuko.jimdo.com/

取材・文|坂田雅美  写真|平林岳志
2015年03月06日掲載