vol.50 ヴィンヤード カラリア
中村 大祐さん

悔いのない生き方を追求して
たどりついた結論

vol.50 ヴィンヤード カラリア<br>中村 大祐さん<br><br>悔いのない生き方を追求して<br>たどりついた結論

人材育成に関する仕事からワイン用ぶどう農家へ

立科町は長野県の東部に位置する南北に長い町です。北部は、稲作を中心に、りんご・野菜・畜産などの農業が盛んで、南部は蓼科山の北西に女神湖・白樺湖・蓼科牧場を有する一大リゾート地。四季折々の風景を満喫することができる、自然豊かな地域です。

東京駅から北陸新幹線佐久平駅までは約1時間半。そこからさらに西へ車で約30分。首都圏から気軽に訪れることのできる身近な田舎です。

冬囲いされたシャルドネ。 近々、会員さんと一緒に藁をはずす作業をおこなう
シャルドネを使って、コンフィチュールやワインビネガー、ドレッシングなどもつくり、ワインとともに提供する予定

この地に東京から移住、町からワイン用ぶどうの試験圃場を引き継ぎ、栽培をはじめたのが中村大祐さんです。それまで、民間企業の人事部で、人材育成に関する仕事に携わってきました。

多忙な日々を長く続けるなかで考えるようになったのは「残りの人生をどのように過ごすか」。新しい生き方についてゆっくり考えようと2015年に退職します。

以前から憧れを抱いていた田舎暮らしに可能性を求めて、東御市のワインアカデミー「アルカンヴィーニュ」で、ワイン用ぶどうの栽培と醸造について学びました。

学べば学ぶほどワイナリーをはじめるということは「自分には難しく、無理だろう」と思いましたが「now or never(今でなければまたとチャンスはない)」と考え、ワイナリー開設への道を歩んでいこうと決めました。

ちょうどその頃、立科町が試験圃場を引き継ぐ就農者を募集していることを聞き、応募。蓼科山と浅間山が見える、見晴らしの良い広陵に植栽された25aのシャルドネの畑を引き継ぎます。

ワインへの付加価値のつけ方に自分らしさ

いつかは自分で植えたぶどうを自分の手で醸造したいと考えつつ、当面は町から引き継いだ畑のぶどうを委託醸造します。

ワイン自体に付加価値をつけることが難しいと思った中村さんは、その提供方法に付加価値をつけられないかと考えました。そこで会員を募り、一緒にぶどうの収穫をしたり、剪定時に出た枝を薪に使ってバーベキューをしたり、ピザ窯料理をつくってワインとのマリアージュを楽しんだりすることにしました。

「あの時収穫したぶどうで造ったワインだね」と、親しい仲間と一緒にワインを飲めば、よりおいしく味わえると考えたのです。

「田舎のおいしい空気を吸いながら、農作業をする。仲間と一緒にワインや地元の食材を使った料理を楽しむ。そんな豊かな田舎暮らしを体験できる場所にしたい。ここに来れば、知っている人がいて、楽しいことがたくさんできると思ってもらえるような存在になれればうれしい」と、微笑みます。

農作業をした後にワインを飲んでお疲れ様会を行い、そのまま泊まってもらえるよう、農林業体験民宿の許認可もとりました。自宅を改装し、「carraria house(カラリアハウス)」として本格的にサービスを展開する予定です。

例えば農作業の他に、「倉庫の壁に巨大な絵を描く」「五右衛門風呂をつくる」「ツリーハウスをつくる」「地元のお祭に参加する」などのイベントを企画。ワインを核に人生を楽しむ機会を提供したいと夢は広がります。

「応援してくださる方が、何度も東京から足を運び、半年以上かけてつくってくださいました。私にとってこの窯は、精神的な支えの象徴のようなものです」
同時に2グループが宿泊可能。ガラス張りの開放的なラウンジ(共有スペース)があり、最大9名が宿泊できる予定。完成が楽しみ

ヴィンヤードが、人と人の交点になることを願って

ファーストヴィンテージは2017年。アルカンヴィーニュに委託し、醸造責任者の小西超(とおる)さんに相談して2種類造りました。

「ファミリア(家族)」と名づけたワインは、樽発酵に由来するまろやかさ、甘い香りをほのかに感じる味わいに。一方、ステンレスタンクで醸造した「オポテュニティー(機会)」は、鮮やかな色合いで、キリッとしたさわやかな飲み心地に。

ワインはカラリア公式サイトの申し込み専用フォームにて購入できる。 ファミリア4600円、オポテュニティー3900円

「carraria(カラリア)」とは、「轍(わだち)」「道」などを意味するラテン語で、career(キャリア)の語源といわれます。

人生とは、一生懸命進んだ後に振り返ったらできていた轍のようなもの。カラリアのロゴマークは、このヴィンヤードに来る方それぞれの人生の交点にシャルドネを描いたものです。「ワインを核に多くの方々が交流する場になったらいいですね」と、中村さんはロゴマークに込めた思いを語ります。

会員さんが都会の喧騒から離れ、豊かな田舎暮らしを体験しながら仲間とワインを楽しむ、新しいスタイルのヴィンヤードがここに誕生したのです。

(取材・文/坂田雅美  写真/平松マキ

中村 大祐

なかむら だいすけ

東京都出身。1967年生まれ。20数年間、民間企業に勤め、システムエンジニア、人材育成に力を注ぐ。田舎暮らしのライフスタイルに憧れ、2015年退職。玉村豊男さんが代表を務める、ワインアカデミーのアルカンヴィーニュにてぶどうの栽培やワイン醸造を学び、農家へ転身。立科町からワイン用ぶどうの圃場を引き継ぎ、移住。

ヴィンヤード カラリア

所在地 長野県北佐久郡立科町藤沢1185-42(ワイナリーはまだありません)
TEL   0267-56-1232
URL  http://trustassociates.co.jp/

2018年04月19日掲載