vol.43 日本ワイン農業研究所
アルカンヴィーニュ

ワインづくりのARC(弧)を広げ
人と人を繋ぐ

vol.43 日本ワイン農業研究所<br>アルカンヴィーニュ<br><br>ワインづくりのARC(弧)を広げ<br>人と人を繋ぐ<br>

ワイン用ブドウを栽培する農家の受け皿に

近年、東御市を中心に、自社畑で栽培したブドウを使ってワインをつくる小規模ワイナリーや、ワイン用ブドウを栽培する新規就農者が増えてきました。
ワイン特区とはいえ、収穫量が2000リットルのワインを造れるまでに満たないとワイナリーを持てないことから、今はまだ夢の途中にいる農家や、ワイナリーは持たなくていいから、栽培することを極めたいという農家など、その背景はさまざまです。

そのような農家からブドウを買い取って自社ワインを醸造したり、委託醸造を受けたりして、自社畑を持たずに6次産業化に貢献しているワイナリーが、日本ワイン農業研究所ARC-EN-VIGNE(アルカンヴィーニュ)です。

平成27年、東御市を含む近隣8市町村が広域ワイン特区に指定され、ますます新規就農者が移住しやすくなった

フランス語「ARC-EN-CIEL(アルカンシエル)」(空にかかるアーチ)の「CIEL(空)」を「VIGNE(ブドウ)」に変えて、ワインを愛する人とワインをつくる人を繋ぐという願いを込めて名付けられました。

ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーを母体にしたワイナリーで、代表は玉村豊男さんが兼任、醸造責任者も同じくヴィラデストの小西超さんが務めています。

ヴィラデストで使っていた古樽や、自動温度管理機能付きのステンレスタンクを使用することで人件費を抑え、カジュアルな値段でおいしいワインを目指します。

また、スパークリングワインを造ることでヴィラデストとの差別化を図っています。

現在のラインアップは、巨峰・シャルドネ・ブラッククイーン・りんご。 自社畑を持たない分、安定してブドウが供給できるよう、契約農家やJAファームと提携を結んで醸造している

醸造担当は林忍さん。「醸造責任者の小西さんから、MC割合(マセラシオンカルボニック Mはマセラシオン=醸し Cはカルボニック=炭酸ガス)も変えて個性を出していいと言われているので、とても楽しみです。原料がいいブドウでないといいものはできないので、いいブドウというのが大前提ですが、人の手がたくさんかかっているので、やはり人柄は出ますね」。

高校生の頃に醸造家を目指し、山梨大学工学部ワイン科学特別コース(現在は生命環境学部地域食物科学科に移行)で醸造を学び、皇室御用達の老舗名門ワイナリー・ルミエールなど、山梨県のワイナリーで10年以上経験を重ねてきました。

委託醸造を受けるときには、委託元と、どんなワインをつくりたいのか相談して進め、そのうえでもっとおいしくなるよう自分のさじ加減を加えていきたいと、林さんの夢は広がります。

アルカンヴィーニュは、併設のショップでワインを販売しているほか、グラスで試飲することも。
フォークリフトを操縦し、醸造からワインの発送管理までをこなす和田耕太郎さんは「忙しいときはご案内できないこともありますが、工場見学が面白いので、ぜひお声がけください」とのことです。

委託醸造を受ける農家さんのなかにはブドウを植えて2〜3年という方もいるので、タンクは小ロットの200リットルから用意
初年度は大口の委託があったこともあり、15000リットルも受けた

日本初の民間ワインアカデミー

アルカンヴィーニュには日本ワイン農業研究所として、もうひとつの顔があり、そこでは千曲川ワインアカデミーを開講しています。

各分野のスペシャリストを講師に招いて、栽培や醸造はもちろん、ワイナリー起業に不可欠なクラウドファウンティングや補助金の知識、経営のため販売戦略や税理の知識まで幅広く実践的に学ぶことができるアカデミーです。

2015年度のカリキュラムでは、栽培をドメーヌオヤマダ(山梨県)の小山田幸紀さんやメルシャンの斎藤浩さん、マンズワインの川俣昌大さんに実際に畑に出て教えていただき、醸造のための科学的知識をフランス国家認定ワイン醸造士の若生ゆき絵さんや野生酵母を利用したワインづくりに定評があるワイナリー農楽蔵(のらくら、北海道)の佐々木佳津子さんに学び、日本と世界の現状やこれからの可能性をワインジャーナリストの鹿取みゆきさん、石井もと子さんに語っていただくなど、講師陣には錚々たる名前が並びました。

2016年度も2015年度同様の講師陣により実践に基づいたカリキュラムが進行中です。

土壌の調査をしている様子 講師は株式会社ズコーシャの丹羽勝久さん
講義室も完備

アルカンヴィーニュで週3日、アルバイトをしながらアカデミーを受講している角石浩さんはそれまで飲食店に勤めていましたが、ワインの勉強がしたいと、岡山から移住してきました。「アルカンヴィーニュは、そのつど各分野からスペシャリストが来て教えてくださるのがすごい。普通、ワイナリーで修業したらそのなかでのやり方しか学べませんからね」と言います。

アルカンヴィーニュで学んだ後は、別のワイナリーへ行ってもう少し勉強したいと語ります。

全国から集まるアカデミー生のなかには最終的に自分の畑を見つけてそのまま東御市で就農する人もいれば、地元のJAファームや隣接する立科町のたてしなップルなど企業から研修で受講に来ている人もいるそう。

この学び舎が人と人を繋ぎ、アルカンヴィーニュが目指したワインづくりのARC(弧)が確実に広がりつつあります。

(取材・文/坂田雅美 写真/塚田 結子)

和田耕太郎さん、小西さゆりさん、林忍さん、角石浩さん

(左から)

ショップでは試飲のほか、アロマベルがあり、4種のアロマの名前を当てるとワインを1杯サービス。工場見学は要予約。
9月から12月までマンズワイナリーやヴィラデストワイナリーなど5カ所のワイナリーとチーズ専門店を巡る、「千曲川ワインバレー循環バス」が千曲バスより運行され、アルカンヴィーニュにも停車します。

日本ワイン農業研究所 アルカンヴィーニュ

にほんわいんのうぎょうけんきゅうじょあるかんゔぃーにゅ

所在地 長野県東御市和6667
TEL 0268−71−7082
URL アルカンヴィーニュ

2016年10月12日掲載