vol.32 大和葡萄酒 四賀ワイナリー
萩原 保樹さん

かつての海底が表れる地を
いずれはスパークリングワインの産地に

vol.32 大和葡萄酒 四賀ワイナリー<br>萩原 保樹さん<br><br>かつての海底が表れる地を<br>いずれはスパークリングワインの産地に

ミネラル分の高いワインづくりのため

大和葡萄酒は、山梨県の勝沼に本社を持ち、萩原保樹さんが4代目となる老舗ワイナリーです。「『世界品質』を目指し、そのためには『独自の産地形成』が必要である。産地形成までを見据えてこそ本当のワインづくりだ」と萩原さんは言います。

大和葡萄酒では、日本古来のぶどう品種とされる6種のうち、現存する「甲州」「竜眼」「甲州三尺」「紫葡萄」を育種しています。なかでも日本最古の品種といわれる甲州の、そのなかでも最古とされる樹齢約130年の樹である「甲龍」を管理し、ワインをつくっています。

こうした日本ならではのワインを追求するなかで「ミネラル」が課題となりました。欧州のワインに対して、日本のワインは「薄い」「軽い」「特徴がない」と評されてきましたが、それは国産ワインのミネラル含有量の少なさであり、土壌成分の違いからくることでした。

そこで山梨県特産である煮貝の貝殻を焼成、粉砕したものを畑に散布し、土壌のミネラル分を補いました。煮貝メーカー、ぶどう栽培農家、県の工業技術センターなどと連携した「ミネラル甲州プロジェクト」はやがて「+WA(わ)」シリーズに集約され、より深みのあるワインが生まれました。

「日本の産地は恵まれてないって言われるんだけど、ただ嘆くよりも、それを明確にしていきましょうと。収穫時のアミノ酸、カルシウム含有量、そういうものを世界と比べて可視化する。そしてそれをテーマに変えて追求していく。それによってうちは世界品質を目指していきます」

こうした取り組みの一方で、萩原さんは山梨県での栽培に限界を感じる品種の新たな栽培地を探していました。そして巡り会ったのが長野県の松本市四賀でした。

栽培適地を求めて長野県へ

松本市の四賀一帯には、約1500万年前から約800万年前(新生代新第三紀中新世)の化石を多く含む地層が広く分布しています。「四賀化石館」には、保福寺川で発掘され、世界最古に認定されたマッコウクジラの化石が展示されています。「ミネラル分の高いワインづくりを目指して、ここにワイナリーを置くことを決めました」と萩原さんは言います。

標高730メートルの十二原地区で、遊休農地となっていた傾斜地を利用してメルローとシャルドネの栽培を委託し、1990年にワイナリーを設けます。ここから生まれるメルローの「十二原」「YASUMASA」、あるいは「リュギースパーク シャルドネEX」は、数々のコンクールで受賞して品質の高さを証明しました。

また、こうしたワイン専用品種だけでなく、長野県ならではの品種である「竜眼」も大事にしたいと萩原さんは考えます。「長野のメルローってすごく評判になってるんだけど、メルローってワイン専用品種でしょ。それをいくらつくっても、世界の壁ってなかなか厚い。それよりも自分独自のものを育てていくことが、最終的には自分を強くする一番の道じゃないか」

そして「意外に竜眼て、スパークリングワインがおいしいんですよ」と言葉を続けます。「四賀ワイナリーは、将来はスパークリングワイン専門の工場にしようと思っています。竜眼だけでなく、シャンパーニュと同じブレンド比率のものをつくります」。そのために、シャンパーニュのワイン組合からピノ・ムニエ、ピノ・ノワール、シャルドネ、この3品種の苗木を取り寄せました。

「販売価格は1500円から3000円くらいで考えています。それくらいでないと買ってもらえない。いくらいいワインをつくっても、世界品質の基準に合わせれば、そんなに高い値はつけられない。品質だけでなく、価格も世界基準であることが大事だと思っています」

世界に並ぶワイナリーになるために

萩原家の先代をさかのぼると、江戸時代初期には油問屋を営んでいたそうです。やがてぶどう醸造に携わり出したのが、萩原さんの曾祖父の代、1913(大正2)年のことでした。「だから油問屋から数えれば俺は16代目だよ。ワイン醸造をはじめてからが4代目」

そんな歴史あるワイナリーのブランド名を「HUGGY WINE(ハギーワイン)」に変えたのが、創業から数えて100周年を迎える2012年のこと。萩原家の「萩(はぎ)」から取り、そして「未来とハグする」「お客さまとハグする」そんな思いを込めたといいます。

萩原さんにとって、ワインづくりはどこまでも明快です。「テーマは『凝縮』『複雑』『エレガント』、この3つ。だから、どうやってぶどうの旨みを凝縮させるか。どうやって土壌由来の複雑さを出すか。そしてエレガントなワインに仕上げるため、いかにバランスを取るか」

「『世界品質』と言ったって、なかなか到達できるもんじゃない。日本のワインが世界に並ぶためには、あと100年、200年かかる。そのための基礎をつくるのが俺の役割で、布石である。ハギーワインにとってのワインづくりは生業であり、達成すべきものであるのに対して、自分は完全なプロセスでしかない」

「だからプロセスを明確にして、自分の役割をまっとうすればいいだけのこと。そういう風に思ってる。世界に並ぶワイナリーになるために300年かかるんだったら、300年続くワイナリーをつくらないといけない」

代々続く家業を継ぐのは重責ではなく必然であると、萩原さんはさらりと言ってのけます。「だけど俺の人生、ワインづくりだけじゃないよ。人生は楽しまなきゃ」

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

萩原 保樹

はぎはら やすき

1963(昭和38)年、山梨県生まれ。東京農業大学卒業後、山梨県ワインセンターにて1年間ワインを研究する。現在は大和葡萄酒の4代目として代表取締役を務める。

大和葡萄酒 四賀ワイナリー

やまとぶどうしゅしがわいなりー

所在地 長野県松本市反町640-1
TEL   0263-64-4255
URL  大和葡萄酒四賀ワイナリー

2015年06月08日掲載