vol.21 上ノ原果樹園
成澤 直さん

「日本のボルドー」をめざして
坂城町をワイン産地に

vol.21 上ノ原果樹園<br>成澤 直さん<br><br>「日本のボルドー」をめざして<br>坂城町をワイン産地に

大きなポテンシャルを感じさせる
ファーストヴィンテージ

2013(平成25)年12月、この年に上ノ原果樹園で収穫されたカベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランが初めて試験醸造されました。熟成されていないヌーヴォーとはいえ、ポテンシャルを感じさせるには十分なできばえ。

「特にカベルネは、樹齢3年の幼木とは思えない仕上がりで、ワインづくりに手応えを感じました。いずれはみんなをびっくりさせるようなワインをつくりたい。まずはいいぶどうをつくろうと思います」

上ノ原果樹園の3代目、成澤直さんはファーストヴィンテージを笑顔で語ります。成澤さんの親戚で、自らもこのワインづくりに関わってきたシニアソムリエの成澤篤人さんも「カベルネはめちゃくちゃいい。今の時点でかなり色も香りも出ていますので、もう少しビン熟を経ればもっと良くなるでしょう」

生食用ぶどうを栽培する上ノ原果樹園に、ワイン専用品種のカベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランの苗木を初めて植えたのは2011年のこと。成澤直さん、篤人さん、加えて篤人さんの経営するイタリアンレストラン「オステリア・ガット」のお客様たちも協力して植えつけました。

「あのときはまだワインになることさえ夢の夢でしたが、こうして飲める日が来たなんて本当にうれしい」と両人。

ワインはまだ委託醸造ですが、いつの日かこの坂城町にワイナリーを作りたいと夢が膨らみます。上ノ原果樹園では、専用品種のほ場を15アールにまで広げ、リースリングやピノ・ノワールも試験的に栽培しています。

2013年の試験醸造で、今後のワインづくりに手ごたえを感じた成澤さん。「まずは畑でぶどうづくりを極めたい」

ぶどう農家3代目、
ワイン専用品種にチャレンジ

上ノ原果樹園は昭和の始めからぶどう栽培を手掛け、デラウェアや巨峰を経て、現在はナガノパープルやシャインマスカットなどの生食用高級品種を栽培しています。1.6ヘクタールのほ場に、試験栽培を含め約20種類のぶどうが育ちます。自然な樹形、伝統的な栽培方法、肥料は有機肥料のみ、減農薬、手間を惜しまないことを信条に、家族で目の行き届いた果樹園経営を行ってきました。

3代目である成澤直さんは一度は東京で就職したものの、Iターンして父とともにぶどう栽培に携わって10年。JGAP指導員の資格を持ちます。JGAPとは、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証で、農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法のひとつです。

ところで、生食用ぶどうで培ってきた経験が、ワイン専用品種にも生きるのでしょうか。

「うーん、例えていえば、硬式テニスと軟式テニスくらいの違いがあります。生食用ぶどうは手をかけて過保護に育てる。ワイン用ぶどうは、むしろスパルタ。副梢も切って養分をリターンさせ、ありったけの養分を結実させます」

栽培方針に大きな違いはありますが、成澤さんの安心安全への意識と技術は高く、たとえば、通常なら年間5〜10回は消毒するところを昨年は3回の消毒で済ませることができています。

試験醸造で「大きな可能性」を感じさせたカベルネ・ソーヴィニヨン
4年目の樹は粒に種がしっかり入り、順調に育っている

坂城町をワインの産地に
ワイナリーを立ち上げる夢

坂城町といえば、精密機械工業で知られた中小企業の町というイメージですが、取材時に驚いたのは、千曲川を望む緩やかな斜面にぶどう畑が続く豊かな風景。

「10年以上前、ドイツに旅行したときに、ワイン産地のひとつであるラインガウの風景を見て、その美しさに感動しました。坂城も地形が似ていますから、あんな美しい風景にしていきたいと強く思いました。それがワイン用ぶどうをつくろうというきっかけでもあるんです」

一方、坂城町は年間降水量が836ミリ(過去10年平均)と雨が少なく、土壌は砂利質。「日本のボルドーとも呼ばれるほど土壌と気候がフランス・ボルドー地方に似ています。さらに夏場でも昼夜の気温差が15度もあり、標高 400〜750mとぶどう栽培の適地です」

そう話す成澤さんたちがワイン専用品種に取り組み始めたころ、坂城町でも六次産業化による農業振興をめざして、ワイン専用品種の試験栽培を始め、ワイナリー形成事業に着手。2013年11月には、坂城町は長野県内で3例目となる「ワイン特区」の認定を国から受けました。

「町がワイン特区になったおかげで、小規模のワイナリーが設立しやすくなりました。今後、どうワイナリーを作るかはまだ未知数ですが、坂城町のぶどうは坂城町で醸造しなくては」

千曲川ワインバレーのなかに、またひとつ、有力ワイナリーができる日を期待しましょう。

有線放送の電信柱を譲り受けて、支柱に。「景観的に良くなったので、電信柱がなくなったら焼杭を使うつもり」
(取材・文/平尾朋子  写真/阿部宣彦)

成澤 直

なるさわ すぐる

1975年、埴科郡坂城町出身。東京で建築設計を学んだのち、大手ハウスメーカーに10年間勤務。「家を継がない3代目にはなりたくない」と坂城町に戻り、実家である上ノ原果樹園で父とともに生食用ぶどうづくりに励む。JGAP認定農園であり、本人はJGAP指導員の資格を持つ。2011年に従兄弟でシニアソムリエの成澤篤人さんとともにワイン用ぶどうを植える。2013年に外部のワイナリーに委託して初の試験醸造。目下、ヴィンヤードとしてのブランド名やラベルデザインなどを検討中。

上ノ原果樹園

ウエノハラカジュエン

所在地 長野県埴科郡坂城町坂城9545
TEL   0268-75-5310
URL  上ノ原果樹園

2014年08月08日掲載