Vol.78 ベリービーズワイナリー
川島 和叔さん、川村 泰丈さん

ぶどうとワインを介して
人をつなげ、地域をつなぐ

Vol.78 ベリービーズワイナリー<br>川島 和叔さん、川村 泰丈さん<br><br>ぶどうとワインを介して<br>人をつなげ、地域をつなぐ

新メンバーによる新たなスタート

ベリービーズワイナリーは「日本のおへそ(belly)に位置する塩尻から、輝くビーズの輪のように、ぶどうやワインを介して人をつなげていきたい」との思いを込め、2018年に設立されました。2020年には組織再編を行い、長野県内で広く飲食店を展開する王滝グループに加わりました。

ワインづくりを担うのは、ワイナリー設立メンバーのひとりである川島和叔(かずよし)さんと、社員として新たに加わった川村泰丈さんです。

左から株式会社王滝 取締役副社長 兼 株式会社ベリービーズワイナリー 代表取締役社長の大目俊成さん、矢沢加工所の真田秀志さん、ベリービーズワイナリーの川村泰丈さん、ひとりおいて矢沢加工所の川島和叔さん、王滝 営業本部広報課課長の内田晶子さん。自社畑のナイアガラの木の下にて

醸造責任者を務める川島さんは塩尻ワイン大学の1期生であり、ベリービーズワイナリーの立ち上げから関わり、また「111(イチイチイチ)ヴィンヤード」という自園のぶどうでオリジナルのワインをつくってもいます。さらに農産物加工を行う矢沢加工所株式会社の運営に携わり、まさに「つなげる」ことを体現しているような人です。

新メンバーである川村さんは長年、印刷会社でレタッチャーとして、おもに山岳写真集を手がけ、写真家とともに北アルプスなどを登攀することもあったといいます。やがて自然のなかで働きたいという思いを募らせて40歳を機に転身し、ワインづくりに取り組むことになりました。実家でブルーベリーを作っているとはいえ、農業未経験からのスタートです。

川島 和叔さん。ワイナリー立ち上げメンバーであり、醸造責任者を務める
川村 泰丈さん。印刷業から転身。ラベルデザインも手がける多彩な人

ぶどうの木を守り、地元とつながるために

自園として借り受けた約1ヘクタールの圃場が標高780メートルの傾斜地にあり、ナイアガラとコンコードが植わっています。ここで川村さんは、まずは地主さんに教わりながら、ひととおりの農作業を身につけました。

山裾にあたるので、鹿やクマが現れることもあるといいますが、地主さんにとっては先代が山の開墾からはじめた思い入れのある畑です。「塩尻ならではのナイア・コンコを守っていきたい」と川島さんとともに口をそろえます。

標高780メートルの傾斜地にある自社ぶどう園

ナイアガラとコンコードといえば、塩尻では古くから植栽され、今も多くの農家が栽培しています。「ナイアガラは塩尻の特産品ですが、量は減っています。高齢化で栽培農家の方がやめてしまったり、ほかの品種に植え替えてしまったり。なんとか少しでも残していきたいという思いがあります」

そして川島さんは言葉を続けます。「塩尻のナイア・コンコは、ワイングラスより湯呑みで飲む方がおいしいと思うんです。気取らずに焼肉とか、地元のものとよく合います」

矢沢加工所の真田秀志さん。愛車に乗って颯爽と
国道19号沿いに立てられた看板がワイナリーの目印に

王滝の取締役副社長であり、ベリービーズワイナリーの代表取締役社長である大目俊成さんも言います。「私たちの系列飲食店でお出しする料理は、高級志向というより、ご家族で楽しんでいただけるようなラインナップです。早摘みナイアガラの辛口は、王滝の得意な魚料理などの和食ともよく合います」

ナイアガラの新たな可能性

大目さんの言う「早摘みのナイアガラ」は、「グリーンハーベスト ブラン」という銘柄で発売されています。グリーンハーベストは本来、収量制限のためぶどうを房ごと落とすことですが、完熟前の早摘みのナイアガラをワインにすると、独特のフォクシーフレイバーがおさえられます。

銘柄を増やしつつ、ラベルも刷新していく。ラベルデザインは川村さんが手がけた

強い香りが出る前に摘み取り、酵母由来のアロマを優先することで、よりやさしい味わいでキリリと酸の立つワインとなるのです。これは、塩尻ワイン大学でかつて講師を務めていた醸造研究家の高橋千秋さんが塩尻市と山梨大学との共同研究でつくり上げたものです。

「ナイアガラの収穫時期は9月の1、2週目あたりなんですが、ちょうど秋雨の多い頃で、晩腐(ばんぷ)病が広がりやすいんです。その前に収穫できれば農家さんの負担が減る、という理由があります」。加えて料理に合わせやすく、酸がしっかりしているので2、3年おくと丸みが出て、味わいは深まります。

研究室のような分析室
委託醸造も受け入れていく予定

また、更地として借り受けた圃場には、メルロー、リースリング、シャルドネ、マスカット・ベーリーAなどワイン用品種を植栽する予定です。「土壌を見ながら検討していきますが、カベルネ・ソーヴィニヨンか、カベルネ・フランもやりたいなと思います」と川島さん。料理とのマリアージュは広がりそうです。

さらにジュースの加工に長けた「矢沢加工所」とともに、新たにワイン用品種のぶどうジュースをつくりはじめています。「ドライバーさんやお子さんだけでなく、ワインを飲む人にこそ、こんなに甘いぶどうからワインができることを知っていただきたい。同じ畑のワインとジュースができたら面白いと思うんです」

「土からこだわってワインをつくり、塩尻を盛り上げたい(川村さん)」。「絶対においしいワインを、基準はそれぞれなので、自分と身近な人がおいしいと思えるワインをつくりたい(川島さん)」。

それぞれの思いはあるものの、より良いワインをつくりたいという思いをひとつにして、新生ベリービーズワイナリーのワイン造りがはじまっています。

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

写真右から

川島 和叔さん、川村 泰丈さん

かわしま かずよしさん、かわむら やすたけさん

川島和叔さんは駒ヶ根市出身。「ベリービーズワイナリーの立ち上げメンバーであり、自園「111ヴィンヤード」も主宰する。
川村泰丈さんは静岡県出身。長野県の印刷会社に15年勤めた後、2020年からワインづくりをはじめる。ラベルデザインも手がける。

Belly Beads Winery

ベリービーズワイナリー

所在地|長野県塩尻市大門八番町9-36

TEL0263-87-0570

URLhttps://bellybeadswinery.com/

 
2022年03月25日掲載