藤牧敬三さん|木工家

藤牧敬三さん|木工家

チーズやパンを切り分けて、そのまま食卓へ。木目の美しい無垢材が、さりげなく背景となってワインを引き立てる。そんなカッティングボードやダイニングテーブルのつくり手は、木工作家の藤牧敬三さんです。

ワインのある食卓を引き立てる無垢材の家具やカトラリー

藤牧さんご自身は「晩酌はもっぱら純米酒です」と困ったように笑います。それでもオーダーメイドからオリジナルまで、住まう人のあらゆるニーズに対応した家具づくりを生業とする人は、ものづくりの際にはそのものが置かれる暮らし全体をイメージするといいます。

「使われるシーンを想定しながらつくって、もちろん自分でも使ってみます」。ワインのある食卓にぴったりのカッティングボードも、そうしてつくられました。根っからの職人気質である藤牧さんが、そのように自分のものづくりを俯瞰して見られるようになったのは、実は数年前のこと。陶芸作家である田中一光さんとの二人展で、ディスプレイの難しさに気づいたことがきっかけでした。

「それまでは食卓をより良く見せるとか、生活シーンを演出するとか、そういうことを意識することなく制作に徹していました」。器が違えば、同じ背景では映えない。当然、什器も変わってくる。「ハッとさせられました。そこから少しずつ、暮らし全体を意識する感覚が身に付いてきました」

そして2013年5月。藤牧さんはパートナーの桃井千佳さんとともに、塩尻市の塩嶺高原にショップ兼ギャラリー「galle_f(ガレ・エフ)」を設けました。ご自身が主宰する「家具工房 Style Galle(スタイル・ガレ)」の家具やカトラリーとともに、陶器や雑貨、服飾など、長野県に工房を構えるさまざまジャンルのつくり手の作品が並びます。

「コンセプトは『フェミニン』。女性らしい視点を大切にしています」と藤牧さん。ご自身がこれまで築いてきた人とのつながりに、桃井さんの感性を加えてセレクトされたものたちが、藤牧さん自ら手掛けた内装や什器に映え、暮らしの延長にあるような空間を心地よいものにしています。

さらに同年、藤牧さんは同じ木工作家である前田大作さんとともに「Permanent furniture movement(パーマネント・ファニチャー・ムーブメント、以下pfm)」を設立し、藤牧さんが制作を、前田さんがデザインほか広報活動全般を担当するという分業体制で、新たな家具づくりに取り組んでいます。

「彼は僕より抜群にデザインセンスがあるので、そこは委ねていいのかなと。僕は職人に徹しています」と、藤牧さんは前田さんに絶対的な信頼を寄せます。「僕らは新たに変わったことをやろうとしているわけではなく、今まで学んできたことを真っすぐに表現しようとしているだけ。松本近辺にはこれだけ木工作家がいて、北欧にも負けない家具をつくっているのだから、身近なデザインを、もっと気軽に暮らしに取り入れようよ、という思いです」

ガレに加えてpfmとしての活動まで。休む間もない藤牧さん自身の暮らしはというと。「提案しているようなことが僕自身できているかというと、それはまた別問題で(笑)。例えば日頃の食卓は、まだ“食べるため”に留まっています。でもたまにお客さまが来たときにちょっとがんばると『生活を豊かにするとはこういうことだな』と感じます。だから“楽しむため”の日々を想像しながら、今は制作に励もうと思います」

よく手入れされた鉋が、用途に合わせていくつもそろう
「陶芸家とのニ人展を機に、生活シーンを演出する感覚が身に付いてきました」
「galle_f」の店内。内装や什器は藤牧さんが手掛けた
pfmのダイニングテーブルと、ペーパーコード編みの椅子とベンチ
藤牧 敬三
ふじまき けいぞう

1965年長野県朝日村生まれ。時計技能士として技能五輪時計修理部門を経験した後、家具づくりを志す。松本民藝家具にて5年間の修業の後、1994年に独立。地元朝日村に「家具工房 Style Galle」を構え、オーダーメイドやオリジナルの家具、カトラリーなどの制作を始める。2013年5月に塩尻市の塩嶺高原にギャラリー兼ショップ「galle_f」をオープン。同年、同じ木工作家の前田大作氏とともに「Permanent furniture movement」を設立し、より使いやすく、より求めやすく、より魅力的な家具を提案している。

作品を購入できる場所

galle_f

住所|塩尻市北小野4133-130

電話|0263-55-7471

http://www.stylegalle.com

取材・文|塚田結子  写真|平松マキ
2013年07月01日掲載