ワインのつくり手を訪ねて

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高山村vol.26 角藤農園佐藤 宗一

高山村は、これからが面白い。ドラマが始まる。

ワイン用ぶどう栽培40年
集約化・効率化を実現した農場

小布施の中心部から車で約5分、高山村の日滝原という地区に角藤農園はあります。長野県は比較的小規模な圃場(ほじょう)が多いなか、角藤農園は8.5ヘクタール、しかもひと続きの一枚の圃場で、見わたす限りのワイン用ぶどうの垣根が広がります。そこにトラクターの轟音を響かせて豪快に現れたのが、農場長の佐藤宗一さん。

「この10年、特に県産ワインの質はすごく良くなったね。だけど、これからは集約化や効率化も考えないと外国産ワインに太刀打ちできない。うちでは、8.5ヘクタールを4人でつくっている。1人で2ヘクタール以上やるので、人件費の効率はすごくいい」

「機械化を見込んで畝幅やトラクターのUターンスペースなども設計してあるから、栽培の実効面積はほぼ95パーセント。普通は80パーセントくらいかな。垣根の高さも普通より40センチほど高いから、それだけ1樹あたりの葉の枚数も多くなり、房数も多くすることができるよ」

角藤農園は2006(平成18)年に、建設業の角藤が開園したもので、株式会社の農業参入の県内第一号です。工場団地などの企業誘致や観光に取り組んできた高山村が、村の次なる振興策としてワインに着目し、角藤と佐藤さんと広大な遊休農地を結びつけました。

佐藤さんは大手醸造メーカーの契約農家としてぶどう栽培40年の実績があり、国際ワインコンクールでの受賞歴も多く、カリスマ栽培家と呼ばれています。

「この日滝原は標高450メートル前後、砂礫質のなだらかな斜面で、以前からいいと思っていた土地。今までの畑は息子に譲って、イチから思い通りのぶどう畑をつくることにしました。苗を植えるのに1年かかったね」

シャルドネを主力に、メルロー、カベルネ・ソービニヨン、ピノ・ノワール、シラー、ヴィオニエが栽培されています。

ぶどうの夏期管理は、多機能トラクターで機械化

ぶどうの夏期管理は、多機能トラクターで機械化

取材時、須坂園芸高校の生徒20人が研修中。6年前から研修を受け入れている。「この中から、ワイン用ぶどう栽培を目指す人が出てくれるといいんだけど」

取材時、須坂園芸高校の生徒20人が研修中。6年前から研修を受け入れている。「この中から、ワイン用ぶどう栽培を目指す人が出てくれるといいんだけど」

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8.5ヘクタールと広大な角藤農園。佐藤さんは「ワイン用ぶどうの栽培家は、少なくとも3ヘクタールくらいの規模になってほしい」と願う

8.5ヘクタールと広大な角藤農園。佐藤さんは「ワイン用ぶどうの栽培家は、少なくとも3ヘクタールくらいの規模になってほしい」と願う

シャルドネのカリスマ栽培家
「これからは赤をものにしたい」

高山村に隣接する中野市で農家の次男として生まれた佐藤さんは、15歳で上京。「ちょうどその3年後が東京オリンピック開催の年。世の中すべてが上り調子で景気良く、未成年ながら酒は飲めたし、ワインにも出会った。これがよかったな」

20歳のとき、長兄が亡くなり、農家の跡取りとして帰郷せざるを得なくなります。

「高度成長期のまっただ中で、農家は巨峰、フジ、エノキタケをつくっていれば御殿ができるという時代。しかし、みんなと同じものでは面白くなかった。なにか違うものをつくりたいと思い、東京での経験から将来、ワインはもっと伸びるだろうとも思っていた。そこへメルシャンから龍眼を契約栽培しないかという話があって、すぐ手を上げた。これが28歳のとき」

しかし、国産品種よりヨーロッパのワイン専用品種への思いが強くなり、シャルドネとピノ・ノワールの垣根づくりに取り組むようになります。

手探りで試行錯誤を続けるうちに、シャトーメルシャンに供給したシャルドネが「北信シャルドネ」として2004年の国産ワインコンクールで金賞を受賞。高山村がワイン用ぶどうの産地として知られるきっかけともなりました。その後も国内外のコンクールで受賞を重ねています。

「シャルドネはまあ成功したと思えるけれど、ピノはまだまだ。このあたりの気候からいえば、メルローやカベルネのほうが合うかもしれない。これから赤をなんとかモノにしたいね」

直線距離15キロに、イタリアから
ドイツまでの多彩なぶどう栽培を

現在68歳の佐藤さんが力を入れているのは後進の育成。長男の明夫さん(佐藤農園)とともに4人の研修生を受け入れ、すでに2人が就農しています。佐藤さんも関わって2006年に発足させた「高山村ワインぶどう研究会」には70人以上が属し、定年退職後の帰農者に加え、若手の新規就農者がいることも頼もしい限りです。

高山村にはまだワイナリーはありませんが、「醸造を知らなければ、栽培は片手落ち」(佐藤さん)として、ワイナリーでの研修も行っています。もちろん、研究会の若手会員には、ワイナリー建設を目指す人がいます。村をあげてワインづくりに取り組む高山村は、2011年6月に県で2番目のワイン特区に認定されています。

角藤農園のある日滝原は標高450メートル、明夫さんの佐藤農園は標高830メートルの福井原にあります。両者の間は車で7分ほど。ちなみに、標高300メートルの千曲川河畔(須坂市)から高山村・福井原までは直線距離でわずか15キロです。

「標高差が大きいという特徴を活かして、それぞれの標高に合った品種を育てれば面白いことになるよ。低いところでは欧州の晩生種を、高いところでは欧州の早生種をという具合に」

「そこにワイナリーやドメーヌが点在するようになれば、ヨーロッパでイタリアからドイツまで4000キロ移動しないと味わえない多彩な品種が、高山村周辺ではわずか15キロ移動しただけで味わえることになる。もう若い人たちはいろいろな品種を植え始めています。高山村はこれからが面白い。ドラマが始まろうとしています」

 

(取材・文/平尾朋子  写真/平松マキ)

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角藤農園のシャルドネだけで醸造された小布施ワイナリー「日滝原 シャルドネ2013」
「同じ材料を各社に供給しても、ワイナリーによって味が違う。これが面白いし、勉強になる」(佐藤さん)

角藤農園のシャルドネだけで醸造された小布施ワイナリー「日滝原 シャルドネ2013」 「同じ材料を各社に供給しても、ワイナリーによって味が違う。これが面白いし、勉強になる」(佐藤さん)

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佐藤 宗一(さとう そういち)

1946年、中野市出身。15歳で上京し、運転手として働きながらワインに出会う。20歳で中野に戻り、実家を継いで農業に従事。生食用ぶどうを作るが、1986年、ワインメーカーからの委託でワインぶどう栽培を始める。2004年、出荷したぶどうによるシャトーメルシャン「北信シャルドネ」が国産ワインコンクールで金賞受賞。その後も受賞歴多数。2006年、角藤農園の農場長に就任。

角藤農園

所在地 長野県上高井郡高山村高井5961-4(ヴィンヤードのみワイナリーはありません)
TEL 090-5556-8866(FAX 026-242-7551)

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