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ワインのつくり手を訪ねて

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東御市vol.23 Aperture Farm(アパチャーファーム)田辺 良

ビオに近いやり方で自分らしいワインを

全国のワイナリーを訪ね歩き
販売からつくり手へ転身

アパチャーファームの田辺良さんは、昨年、東御市の姫小沢という地籍にまとまった土地を確保しました。県内の実力派ワイナリーであるヴィラデストワイナリーとリュードヴァンにほど近く、ぶどう栽培の適地として知られた場所。空に向かって開けたような南斜面は眺めも抜群で、将来のワイナリー候補地としても夢が膨らみます。

「遊休農地はあっても、新規就農者に最初はなかなか貸してもらえません。有機野菜の栽培から始めて、実績を積んできたのがよかったのでしょう。ありがたいことに、今は土地を使ってほしいと言われて応じきれないくらいです」

埼玉県出身でアメリカの大学で写真を学んだ田辺さんが、ワインに出会ったのは22歳のとき。「写真で身を立てるのは難しいと悟って帰国したとき、身についていたのは英語だけでした」。その英語を活かして商社に就職し、いろいろなワインに出会いました。

さらに専門的にやっていきたいと酒販会社に転職、そこで国産ワインの担当になりました。全国各地のワイナリーを訪ね、ぶどう畑を見て歩くうちに、自らもワインづくりを志します。

「ワイン特区の東御市は気候が冷涼でぶどう栽培の適地であるうえに、東京からの距離感もほどよい。しかも新規就農者の受け入れも、比較的しっかりしています」

姫小沢のぶどう畑には、2013年に植えたばかりのシュナン・ブラン。お気に入りの椅子で景色を愛でつつ、ワイナリー開設への思いを馳せる

姫小沢のぶどう畑には、2013年に植えたばかりのシュナン・ブラン。お気に入りの椅子で景色を愛でつつ、ワイナリー開設への思いを馳せる

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30種ほども栽培する有機野菜。レストランへ納品するほか、軽井沢のマルシェなどで販売(写真は2点とも田辺さん撮影)

30種ほども栽培する有機野菜。レストランへ納品するほか、軽井沢のマルシェなどで販売(写真は2点とも田辺さん撮影)

ボルドー液以外は
化学肥料、殺虫剤、殺菌剤もなし

ワインづくりを目指して2010年に東御市に移住。まずは生計を立てるため、有機農家を里親として野菜栽培を学びました。今は約1ヘクタールの畑に30種ほどの有機野菜を栽培し、おもに軽井沢のフレンチやイタリアンの契約レストランに納入しています。この野菜は鮮度がいいのはもちろん、ほれぼれするような美しさ。シェフたちが信頼を寄せるのもうなづけます。

現在、ワインぶどう用に借りた農地は合計90アール。標高600~800メートルに位置する畑に、メルローとシュナン・ブランを栽培しています。野菜の有機栽培で培った経験から、ぶどう栽培も農薬はボルドー液のみ。化学肥料、殺虫剤、殺菌剤さえ使わない、限りなくビオに近いやり方です。

「大変でしょうと言われますが、最初からこうした育て方をすれば、意外にぶどうは強く育ってくれます」

そうはいっても苦労はつきもの。冒頭にご紹介した姫小沢の土地は、土壌が粘土質で水が浸み込みにくく、春先の雨が少なかったせいもあってシュナン・ブランはうまく育たない苗も。「開墾してすぐに植えたのがよくなかったのでしょう。今は草を生やして自然な土壌改良を待っています」

また、シュナン・ブランはもともと成長が遅いのですが、甘やかさず無施肥。自力でゆっくりと丈夫に育って行くのを見守っています。

「自分らしいワインを自然なつくりでじっくりと育てて行こうと思います。自然派ワインとして、ファンになってくださる方が必ずいますから」

ファーストリリースは
「アプリシエイション(感謝)」

4年前に植えたメルローをリュードヴァンに委託醸造したのが、ファーストリリースの「アプリシエイション2013」。ラベルも銘柄も毎年変えるつもりですが、まずはアプリシエイション(感謝)というのは、田辺さんらしいと誰もが言います。90本のリリースに対し、野菜を納めている軽井沢のレストランなどから予約が殺到し、抽選で販売するという人気ぶり。「2年目の今年は90本を300本に増やして、昨年お断りした方々にもお届けしたい」

一方、田辺さんが白系で大好きなのがシュナン・ブラン。県内での栽培はおそらく非常に少ない品種です。単一でもブレンドでもいいものができる幅の広さがあり、待望のファーストリリースは2015年の予定です。

ところで、ワイナリーはいつごろできるのでしょうか。

「あせってないんです。まだまだ勉強することが多くあるので、自分が40歳くらいのときにワイナリーを開業できればいいかなと」

田辺さんは現在、33歳。まだまだ時間はあります。しばらくはぶどう栽培そのものに徹していくつもりです。

実は今年7月、メルローは雹(ひょう)に遭いました。それも東御市内でもかつて経験のないような被害で、狙い撃ちされたように局地的なもの。傷んだ粒は早く房から取り除かないと病気の原因になります。

「友達が集まって手伝ってくれたので、1週間ほどで作業を終えました。ダメージは最小限で食い止められたんじゃないかな。自然相手ですから何が起きるかわからないですけれど、ひとつひとつ乗り越えていくしかありません」

 

(取材・文/平尾朋子  写真/平松マキ)

もとは巨峰の畑の棚をそのまま活かしてメルローを栽培。「棚の下を風が通るので、ぶどうが病気になりにくいんです」

もとは巨峰の畑の棚をそのまま活かしてメルローを栽培。「棚の下を風が通るので、ぶどうが病気になりにくいんです」

ファーストリリースの「アプリシエイション2013」。まだ青々しいが、優しい味わいのメルロー。写真をあしらったラベルが、写真を学んだ田辺さんらしい

ファーストリリースの「アプリシエイション2013」。まだ青々しいが、優しい味わいのメルロー。写真をあしらったラベルが、写真を学んだ田辺さんらしい

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田辺 良(たなべ りょう)

1981年、埼玉県蓮田市出身。米国の大学で写真を学び、帰国後、商社に就職。その後、酒販会社に転職し、国産ワインの担当として全国のワイナリーを訪問。ワインづくりを志して、2010年に東御市に移住して新規就農。有機野菜栽培を収入の柱にしながら、ワインぶどうをじっくり育成中。

アパチャーファーム

所在地 長野県東御市和3107-1
TEL 問い合わせはメールで(aperturefarm@gmail.com)
URL https://www.facebook.com/ApertureFarm

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