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ワインのつくり手を訪ねて

Vol.14 信州まし野ワイン

松川町Vol.14 信州まし野ワイン宮沢 喜好

南アルプスをのぞむ、りんご畑の小さなワイナリー

開拓団により拓かれた地で
ワイナリーを設立

松川町増野は、眼下に天竜川、正面に南アルプスをのぞむ標高770メートルに位置します。この地に開拓の手が入ったのは、戦後になってのこと。外地から帰還した人たちにより「増野原開拓組合」が組織され、1947(昭和22)年に30戸ほどが人家のない山林に入植しました。

「うちの親父は軍人で、五男くらいだったので(外地へ)出てったんです。ここらへんは有史以来田んぼができなくて、戦後になってはじめて開拓されました。果樹を育てて、ようやく水のない不毛な地が畑になった。農家の歴史ってのは、ここにはないんです」。しかしだからこそ、彼らは古いものにこだわらず、進取の気性に富み、団結力が強かったのだと、信州まし野ワインの代表取締役を務める宮沢喜好さんは言います。

やがて辺り一帯が見わたす限りのりんご畑となり、りんごやなしがこの地の特産品となります。そして1987(昭和62)年に、宮沢さんも含む開拓2世の3人が中心となって周辺の果樹農家が集まり「増野りんご加工組合」を発足させます。「青果物だけで農家がやっていける時代じゃなくなって、まずジュースをつくろうとなったんです」

しかし1990(平成2)年にはりんご果汁の輸入自由化が行われます。「ジュースだけではだめかなと。それで次はワイン会社をつくろうって考えたんです」。翌91年には「信州まし野ワイン株式会社」を設立し、ワインの醸造をはじめます。

「でも実際にりんご果汁は入ってきたんだけど、それより前に僕らがつくりはじめた混濁果汁のジュースが全国でも一斉につくられはじめて、消費者はそれがりんごジュースだと認知してくれた。だからアメリカから入ってきたカラメル色した清澄果汁は受け入れられなかったんです」。今でも売上の7割をジュースが占め「思いのほか今でもジュースがメイン」だと宮沢さんは言います。

かわいらしい外観の建物は、1階がショップ。2階のホールでは、コンサートやイベントが開かれたり、地元農家の若者の結婚式が行われたことも

かわいらしい外観の建物は、1階がショップ。2階のホールでは、コンサートやイベントが開かれたり、地元農家の若者の結婚式が行われたことも

天竜川へと至る傾斜地一面に、ぶどう畑が広がる。水はけが良く、日当りが良い。開拓以前は人家のない山林だった

天竜川へと至る傾斜地一面に、ぶどう畑が広がる。水はけが良く、日当りが良い。開拓以前は人家のない山林だった

「ひとくちにヤマブドウといっても、いっぱい亜種ができているんです。早生があったり、奥手があったり。途中の品種をみなさんにわたしてつくってもらっています。サンカクヅルだけやっている方もいます」

「ひとくちにヤマブドウといっても、いっぱい亜種ができているんです。早生があったり、奥手があったり。途中の品種をみなさんにわたしてつくってもらっています。サンカクヅルだけやっている方もいます」

雨よけの笠をかけて晩腐病を防ぎ、収量制限をしてより良いぶどうをつくるための手間を惜しまない

雨よけの笠をかけて晩腐病を防ぎ、収量制限をしてより良いぶどうをつくるための手間を惜しまない

ワイン専用品種と
地元ならではの赤ぶどうと山ぶどう

ワイナリー設立を前にして、宮沢さんもぶどう栽培をはじめました。しかしりんごやなしの栽培はお手のものでも、ワイン用ぶどうは未知のことばかり。「植えてから5年くらいは病気も出ずに、糖度もそこそこのいいぶどうがなんとなくできちゃったんですよ。でもその後、病気がついて、なかなかできなくなったんです」

山の端にある畑のぶどうは木食い虫にやられ、何度も枯れてしまったといいます。「もう嫌になっちゃって、そこはやめてしまいました。この辺は雨が多いから、うちはぶどう専門じゃないから、いいもんなんかできるわけねえよなって、勝手にあきらめてたんです」

しかし、他のワイナリーでも苦労してぶどうをつくっていることが宮沢さんの耳に届きます。「『名醸地はもともとあったものではなく、人間の努力がつくる』という、かつて聞いた言葉の意味が感じられるようになって。自分が努力しなければ、いいぶどうができないんだということに今さら気づいて、またやる気が出てきました」

自社畑では、息子の喜一さんと奥さんの直美さんが中心となり、シャルドネ、メルロー、信濃リースリングなどのワイン専用品種や、南信特有のキャンベル、山ぶどうなどを育てています。「塩尻はコンコードだけど、ここらへんではキャンベル。『赤ぶどう』って呼んでますが、病気に強くてどこでもつくれるので、昔から庭先にあるようなぶどうなんです」

山ぶどうはサンカクヅル、別名「行者の水」といいます。「飯田市の生産者の方が苗木を盆栽仕立てにしていて、母樹にたくさん実がなるのをどうにかしたいって持ってきてくれたのがきっかけです」。濃い味わいの小粒の果粒からは、野趣あふれる香りの個性的なワインがつくられます。

さまざまなフルーツワイン
そしてりんごのワイン

ラ・フランス、かりん、さるなし、梅、桃、そしてりんごのワイン。さまざまな果物からつくられるフルーツワインもまた、まし野ワインならではのものです。「りんごのワインは飲みやすくて、意外とご飯とみそ汁と合います」と宮沢さんは言います。

2011年3月には、ドイツのフランクフルトで行われた「国際りんごワイン見本市」に唯一のアジア勢として参加しました。「Apfelwein(アプフェルヴァイン)」は、フランクフルト特産のりんごからつくられる地酒で、フルーティで低アルコール、酸味が効いて食事にも合わせやすいとあって、現地ではビール感覚で親しまれています。

「ドイツではみんなビールを飲むかと思ったら、フランクフルトではジョッキでりんごワインを飲むんです。度数も低くて、それをさらに水で割って飲んだり。アジアからは私たちが初参加でしたが、フランス、スイス、ロシア、フィンランド、スペインなど、ほとんどのヨーロッパの国が参加してブースをつくっていて、りんごワインは結構広く飲まれていると感じました」

カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローをブレンドした「まし野ルージュ」や、オーク樽でじっくり熟成させた「エクセレントシャルドネ」といった本格的なワインだけでなく、りんごワインにも力を入れていきたいのだと宮沢さんは言います。

「ここはもともとりんごやなしの産地ですから、なしのワイン、りんごのブランデーなんかもつくってみたいですね。近々にはシードルを復活させたいです。それが地域のためでもあるだろうなと思います」

開拓団のフロンティア精神を受け継ぐ自由な気風のなかで、まし野ワインの独創的な製品づくりは続きます。

 

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

熟成感のある辛口のエクセレントシリーズは2000円代、親しみやすい風味のフルーツワインシリーズは1000円代が主。求めやすい価格もまた魅力のひとつ

熟成感のある辛口のエクセレントシリーズは2000円代、親しみやすい風味のフルーツワインシリーズは1000円代が主。求めやすい価格もまた魅力のひとつ

ダンスが趣味で、ワインの会にも足を運ぶ宮沢さん。「飲んで、ワインの話をしていればいい。いろいろと話をしなくていいので意外と気楽なんです」

ダンスが趣味で、ワインの会にも足を運ぶ宮沢さん。「飲んで、ワインの話をしていればいい。いろいろと話をしなくていいので意外と気楽なんです」

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宮沢 喜好(みやざわ きよし)

1957(昭和31)年、松川町生まれ。信州大学農学部卒業後に就農。1991(平成3)年より信州まし野ワイン株式会社代表取締役に就任。松川町農業委員長、日本有機農業生産者団体中央会理事ほかを務める。

信州まし野ワイン株式会社
信州まし野ワイン株式会社

所在地 長野県下伊那郡松川町大島3272
TEL 0265-36-3013

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