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ワインのつくり手を訪ねて

Vol.13 本坊酒造 信州マルス蒸留所

宮田村Vol.13 本坊酒造 信州マルス蒸留所志村 浩樹

モルトウイスキーとともにつくられるヤマソービニオンのワイン

本格ウイスキーをつくるため
信州マルス蒸留所を設立

鹿児島市に本社のある「本坊酒造」の創業は1872(明治5)年にさかのぼります。製綿業からはじまって、明治後期には焼酎の製造を手がけるようになり、戦後に入ってからウイスキーも蒸留するようになります。当初は鹿児島で行われていたウイスキーづくりは、1960(昭和35)年に「山梨マルスワイナリー」が設立されると、山梨でも行われるようになります。

現在、山梨マルスワイナリーはワインづくりに特化しており、「シャトーマルス」シリーズに代表される上質なワインで知られます。2013年の国産ワインコンクールでは「シャトーマルス キュベ・プレステージ 穂坂日之城シャルドネ2012」が金賞および部門最高賞を受賞しました。

ウイスキーづくりにおいては、より理想的な環境を求めて、1985(昭和60)年に駒ヶ岳山麓の標高798メートルの地に「信州マルス蒸留所」が設立されます。蒸留設備が移設され、澄んだ空気と中央アルプスの伏流水に恵まれたこの地にウイスキーづくりは集約されたのです。

しかし設立からほどなく、ウイスキーの級別廃止や酒税改正、さらに焼酎ブームなどが重なって、ウイスキーの需要が低迷します。1992(平成4)年にはやむなく蒸留を休止。長らくブレンドやビン詰めのみが行われていましたが、昨今のウイスキー人気や海外でのジャパニーズウイスキーへの評価の高まりが後押しとなり、2011年に蒸留再開を果たします。

そして2013年、この霧深い森の小さな蒸留所が世界の注目を集めました。イギリスで開催された「ワールド・ウイスキー・アワード2013」において「マルス モルテージ3プラス25 28年」がブレンデッドモルト・ウイスキー(※別掲)の最高賞を受賞したのです。

19年間にもわたる休止期間中もモルトウイスキーはゆっくりと熟成を重ね、世界的なウイスキー・コンペティションにおいて初エントリーにして世界最高賞受賞という快挙を成し遂げたのです。

ウイスキー製造のシンボルともいえる単式蒸溜釜、通称「ポットスティル」。マルスの生みの親である岩井喜一郎氏が、当時の部下であった竹鶴政孝氏による「竹鶴レポート」を元にしてつくった

ウイスキー製造のシンボルともいえる単式蒸溜釜、通称「ポットスティル」。マルスの生みの親である岩井喜一郎氏が、当時の部下であった竹鶴政孝氏による「竹鶴レポート」を元にしてつくった

樽貯蔵庫にはウイスキーの香りが満ちる
※「ブレンデッドモルト」とは、複数の蒸溜所のモルトウイスキーをブレンドして瓶詰めされたもの。これに対し「シングルモルト」は、単一の蒸溜所でつくられたモルトウイスキーのこと

樽貯蔵庫にはウイスキーの香りが満ちる ※「ブレンデッドモルト」とは、複数の蒸溜所のモルトウイスキーをブレンドして瓶詰めされたもの。これに対し「シングルモルト」は、単一の蒸溜所でつくられたモルトウイスキーのこと

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「山形の月山で見たヤマソービニオンは、こんなに葉が大きくなかった。同じ品種か疑うくらい違いがあります」

「山形の月山で見たヤマソービニオンは、こんなに葉が大きくなかった。同じ品種か疑うくらい違いがあります」

「V字仕立てといって、2本で仕立てていくんです。そこから先は試行錯誤でやってきました」と語る小林さん。「ヤマソービニオンは新しい品種だもんで、こういう風につくればいいっていうマニュアルがないんですよ」

「V字仕立てといって、2本で仕立てていくんです。そこから先は試行錯誤でやってきました」と語る小林さん。「ヤマソービニオンは新しい品種だもんで、こういう風につくればいいっていうマニュアルがないんですよ」

山ぶどうで村おこしを
村を挙げての取り組み

りんご栽培の盛んな宮田村では、農家の高齢化やりんごの価格低迷を背景に、新たな農産物による地域振興を模索していました。本坊酒造のワイン総責任者と栽培農家のひとりが、山梨大学で「ヤマソービニオン」を開発した山川祥秀教授と同期であった縁もあって、このぶどうでつくったワインを村の特産品にしようとの構想が持ち上がります。

1998(平成10)年には村長を議長とする「中央アルプス山ぶどうの里づくり推進会議」が発足し、役場、商工会、農協、農業改良普及センター、そして本坊酒造などが加わって、ぶどうの栽培からワインの醸造と販売まで、村を挙げての取り組みがはじまりました。

「当時はウイスキーの製造休止期間でしたので、新たにワインをつくっていこうと。本坊酒造には、地域に根ざし、地域の資源を生かしていこうという経営理念がありますから」と語るのは、製造主任を務める志村浩樹さんです。

ヤマソービニオンは、日本に自生する山ぶどうと、ボルドー地方の主要品種であり、最高級ワインの原料ともなるカベルネ・ソーヴィニヨンの交配品種です。一般的な欧州系品種よりも日本の気候に適し、病害虫に強く、宮田の地にもよく根づきました。

ぶどうの栽培は、村内にある十数軒の契約農家が担います。山ぶどう生産者組合の組合長を務める小林通泰さんは、畑のりんごをぶどうへ植え替えました。「りんごよりもぶどうの方が楽だってことで始めたんですけど、やっぱりいいものをつくるには手をかけんとね。ぶどうもりんごも手間は同じくらいかかります。ただ秋の片付けは早いね。収穫して出荷して、あとは志村さんにバトンタッチだ」

ヤマソービニオンから醸される
「紫輝」と「信州駒ケ原」

1999(平成11)年、はじめて収穫されたぶどうは山梨マルスワイナリーへ持ち込まれ、312本の「名のないワイン」となりました。翌年には信州マルス蒸留所でもワイン製造免許を取得、商品名を一般公募して、正真正銘、宮田村産のワイン「信州宮田ワイン紫輝(しき)」ができあがります。

「紫輝」は仕込んだ年の12月に発売されます。その味わいは、志村さんいわく「フレッシュでフルーティ」。一方、ひと冬置いて落ち着かせてから春先にビン詰めされる「信州駒ケ原」は「複雑な味わいの熟成タイプ」。

ヤマソービニオンのワインは「山ぶどうの持つ野性的で郷愁をそそる独特の風味と、カベルネ・ソーヴィニヨンの持つ上品で芳醇な香り」が特徴ですが、「夏が猛暑の年は山ぶどうの特徴が出やすく、涼しいとカベルネ・ソーヴィニヨンの力が出やすい」と志村さんは言います。

「その年ごとにできるぶどうの良さを引き出してあげるのが私たち醸造家の使命です」。そう語る志村さんが酒づくりの仕事を志したのは、なんと小学生の頃。とある蒸留所を家族で訪れ、感動を覚えたことがきっかけでした。

子どもの頃の夢をそのままに本坊酒造に入社し、10年間は鹿児島で焼酎づくりに打ち込みます。2007(平成19)年に製造主任としてこの地に赴任してからは、ウイスキーもワインも梅酒も手がけるようになりました。

「もともとはワインがつくりたかったんです。やっぱりワインが一番おいしいですね(笑)。仕込みが終わってひと安心してから飲みたくなります」。ひと息つくのもつかの間、次にはウイスキーの仕込みが待っています。

 

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

ヤマソービニオンと竜眼を合わせた「ロゼ・ド・信州」、安曇野産竜眼をシュール・リー製法で仕上げた「安曇平」など、ヤマソービニオンの樽熟成タイプといった製品もそろう

ヤマソービニオンと竜眼を合わせた「ロゼ・ド・信州」、安曇野産竜眼をシュール・リー製法で仕上げた「安曇平」など、ヤマソービニオンの樽熟成タイプといった製品もそろう

ワインの熟成に使われていたフレンチオークの樽を、ウイスキーの熟成に使うこともある。「ワインの良し悪しはぶどうの力で決まるといわれますが、ウイスキーは樽で8割決まるといえます」と志村さん

ワインの熟成に使われていたフレンチオークの樽を、ウイスキーの熟成に使うこともある。「ワインの良し悪しはぶどうの力で決まるといわれますが、ウイスキーは樽で8割決まるといえます」と志村さん

志村 浩樹
志村 浩樹(しむら ひろき)

1975年(昭和50)生まれ、山梨県甲府市出身。南九州大学食品工学専攻。卒業後、本坊酒造株式会社に入社。1998年から10年間、鹿児島県で焼酎造りに携わった後(途中1年間山梨マルスワイナリーで研修)、2007年より信州マルス蒸留所にて製造主任を務める。

本坊酒造 信州マルス蒸留所
本坊酒造 信州マルス蒸留所

所在地 長野県上伊那郡宮田村4752-31
TEL 0265-85-4633

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