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ワインのつくり手を訪ねて

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飯綱町Vol.11 サンクゼール久世 良三/池田 健二郎

聖書の精神に導かれ、豊かな農村文化と上質なワインをつくる

斑尾高原のジャム屋から始まり
フランスの田舎に感化され

サンクゼールのある飯綱町は、北信五岳のひとつである斑尾山の南麓に広がる丘陵地帯にあります。旧三水村にあたるこの地は標高600メートル超、昼夜の寒暖差が大きく、おいしいりんごの産地としても知られます。

久世良三さんが妻のまゆみさんとともに、サンクゼールの前身である「斑尾高原農場」を設立したのが1982年のこと。ペンション経営の傍ら、まゆみさん手づくりのジャムが評判となり、やがてジャム製造販売業へと転向を遂げたのです。

ジャムの仕事が軌道にのった頃、ふたりはフランスの田舎を訪れます。名ばかりの「農場」を具体的なかたちにするための視察も兼ねての旅でした。ノルマンディーではりんご畑のなかに点在するカルバドスの蒸溜所を訪れ、ブルゴーニュではドメーヌ、ボルドーではシャトーと呼ばれるワイン醸造所をまわり、大いなる田舎の美しさと、そこで誇りを持って暮らす人々の精神的な豊かさに感銘を受けます。

「農村にこそポテンシャルがある。地元の農家の方とも交流しながら、豊かな農村文化をつくり上げよう。信州の田舎でならそれができる」。久世さんは描いた夢の実現に取り組みます。当時の村長の協力のもと、旧三水村の小高い丘に用地を取得し、88年には本社と工場を竣工、翌年にはレストランをオープンするとともに農業法人を設立してワイン用ぶどうの栽培を始め、その翌年にはさらにワイナリーと売店を新設します。

現在は全国に46店舗、中国に2店舗の直営店を持ち、本店を構える「サンクゼールの丘」には県内外から多くの人が訪れます。素晴らしい景色を臨むレストランでは、地元の食材をふんだんに使った料理がワインとともに味わえ、自社畑でのぶどう栽培から醸造までを一貫して行うワインは、国際コンクールでも認められる品質を誇ります。

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ワイナリーやショップ、ジャム工場が美しい庭園を囲むようにして建つ。またデリカテッセンコーナーではジェラートや自家製ソーセージを使ったメニューがそろい、ウッドデッキや芝生のベンチで思い思いに楽しむことができる

ワイナリーやショップ、ジャム工場が美しい庭園を囲むようにして建つ。またデリカテッセンコーナーではジェラートや自家製ソーセージを使ったメニューがそろい、ウッドデッキや芝生のベンチで思い思いに楽しむことができる

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ワインとキリスト教とは、切っても切り離せないもの。ウエディングセレモニーのためだけに使われていた教会はやがて建て替えられ、本来の祈りの場となった。今でも多くのカップルがここで神の祝福を受ける

ワインとキリスト教とは、切っても切り離せないもの。ウエディングセレモニーのためだけに使われていた教会はやがて建て替えられ、本来の祈りの場となった。今でも多くのカップルがここで神の祝福を受ける

経営危機を乗り越えて
聖書の精神に基づく理念を構築

「私たちがフランスの田舎で感動とともに体験したことが、大体実現できたかなと思います。今ではワイン文化も日本に定着しつつありますし、成熟した生活者の方が地元も含めて全国に大勢いらっしゃる。私たちのつくる世界観に多くの方の共感をいただいていると思います」

こう語る久世さんですが、ここまですべてが順調に運んできたわけではありません。ワイナリーを設立して間もなく、高い理想を掲げて気負いに任せた相次ぐ展開に資金繰りが追いつかず、経営的な危機に立たされます。ワイン事業もすぐには軌道に乗らず、10年近くは赤字続き。特にぶどう栽培はなかなか思うようにいきませんでした。

銀行との折衝に眠れぬ夜が続き、やがて久世さんは声が出せなくなるほど精神的に追い詰められます。「社長として失格だとか、価値のない人間だとか、自分を攻めました。あれだけ自信満々だった人間が打ち砕かれてしまったんです」。そんな久世さんの心に、クリスチャンである妻まゆみさんが読む聖書の言葉が染みわたりました。

やがて久世さんは洗礼を受け、聖書の精神を経営理念にも反映させます。「まず私自身が変わり、心から感謝する気持ちが湧いてくるようになりました。そうすると人との接し方も変わってきて、部下の意見を聞けるようになったり、相手を尊重して任せられるようになりました」。そして社員一丸となって経営危機を乗り越えます。

「サンクゼールの丘」には2004年にチャペルが建てられます。スタッフも一緒になってつくったこのチャペルでは、日曜ごとの礼拝のほか、社員による聖書の学び、そしてウエディングセレモニーが行われています。

おいしいワインは良いぶどうから
サンクゼールらしさを求めて

ワイン事業の立て直しには、当時メルシャンに在籍していた浅井昭吾氏の指導を仰ぎました。浅井氏は畑づくりを根本から見直し、1998年には自ら仕込みをしたといいます。当時、工場長を務めていた池田健二郎さんは、そのノウハウを直に吸収しました。

池田さんは89年に入社し、ワイナリー設立当初からワインづくりに携わってきました。それ以前は建築家を志し、お酒は飲めなかったといいますから、まさにゼロからのスタート。やがてワインづくりの面白さに目覚め、ワインの品質向上を図ります。その成果は、浅井氏によるテコ入れ以降の受賞歴を見ても明らかです。

池田さんは2003年にフランス、ブルゴーニュ地方を研修で訪れ、ヴォーヌ・ロマネ村でドメーヌを営むミッシェル・グロ氏と出会います。彼のつくるワインの味とその人柄に魅せられ、彼の元で40日間の研修を積みます。そしてワインには気候風土や技術だけでなく、つくり手自身が反映されることを実感します。

また、ロマネ・コンティの畑のぶどうを口にする機会があり、世界最高峰とされるワインとなるぶどうが、他の畑より群を抜いておいしいことに目を見張ります。「根本はやはりぶどうだ」と痛感した池田さんは、醸造を他のスタッフに任せて積極的に畑に出るようになります。そして2008年からは農場長として栽培に専念しています。

「サンクゼールでは個でなく企業がブランドになっていけばいいですね。目指す品質を明確にして時代や市場も見据えたうえで、気候風土に合ったワインを常に追い求めていきたい。満足することはないでしょうね。ワインづくりは1年に1回。毎年が1年生です」

 

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

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大入(おおいり)ヴィンヤードは栽培面積約6ヘクタール。なかでも樹齢25年の古い木からフラッグシップワインがつくられる。「化学肥料は使わず、農薬はできるだけ回数を減らす。そして月の満ち欠けを意識するようにしています」

大入(おおいり)ヴィンヤードは栽培面積約6ヘクタール。なかでも樹齢25年の古い木からフラッグシップワインがつくられる。「化学肥料は使わず、農薬はできるだけ回数を減らす。そして月の満ち欠けを意識するようにしています」

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久世 良三(くぜ りょうぞう)

1950(昭和25)年東京都生まれ。慶応大学卒業後、大手スーパー勤務を経て75年に斑尾高原にペンションをオープン。妻まゆみさんの手づくりジャムが評判となり、82年に斑尾高原農場を設立してジャムの委託製造販売を開始。87年、現在の地に本社工場を、また全国各地に直営店を構え、製造から販売まで一貫体制を確立。2005年に社名を株式会社サンクゼールに変更。同社代表取締役社長を務める。

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池田 健二郎(いけだ けんじろう)

1969(昭和44)年生まれ、中野市出身。89年入社、ワイナリー立ち上げ当初からワインづくりに関わる。2008年からは農場長としてぶどうづくりに専念している。

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株式会社サンクゼール

所在地 〒389-1201 長野県上水内郡飯綱町芋川1260
TEL 026-253-7002

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