ワインのつくり手を訪ねて

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須坂市Vol.9 楠わいなりー楠 茂幸

須坂の風土から生まれる上質でやさしいワイン

脱サラ後の人生を
ワインとともに歩む

楠茂幸さんがワインに興味を持ち始めたのは、大型航空機の購入やリースの仕事に携わっていた頃。赴任先のシンガポールでは、食事とともにワインを楽しむのは日常的なことでした。やがてワインへの興味は、味わうことからつくることへと移ります。

帰国してからはぶどう農家を訪ね、日本でのワインづくりについて独自に学んだ楠さんは、自分の故郷である須坂の地がワイン用ぶどうの栽培に適していることを知ります。そして自分が本当にやりたいことは「自然のなかでのものづくり」であり「知識と技術と感性を必要とすること」だと思い至ります。それはワインづくりそのものでした。

時を同じくして楠さんの父親が病に冒され、余命1年の宣告を受けます。残された時間を一緒に過ごすため、楠さんは20余年間のサラリーマン生活に終止符をうち、帰郷します。やがて父親を看取り、四十九日を済ませると、オーストラリアへと渡ります。

当時44歳。決して早くはないスタートを切ったゆえ、ワインについて体系的に学ぶ必要があると感じ、アデレード大学の大学院に身を置いたのです。ボルドーでもカリフォルニアでもなかったのは、ぶどう栽培に関して同校が理論的に進んでいること、学士入学を受けつけていること、英語圏であることが理由でした。

国籍も年齢もさまざまな人たちとぶどう栽培とワイン醸造を学びつつ、大学併設のワイナリーで働きながら実地を体験し、現地のワイナリーを訪ね歩き、やがて修了後の2004年に帰国します。

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畑ごとに樽熟成されるワイン。ブレンドするか単一畑として出すか、仕上がりを確認していく。醸造棟に隣接して、本格的なスパークリングワインを製造するための工場を新たに建設する予定

畑ごとに樽熟成されるワイン。ブレンドするか単一畑として出すか、仕上がりを確認していく。醸造棟に隣接して、本格的なスパークリングワインを製造するための工場を新たに建設する予定

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「今では肥料をやらなくてもぶどうは収穫できています」と楠さん。草生栽培では、刈られた草は地中に返り、やがて微生物が分解して肥料となる。「自然の循環というものを大事にしたい」

「今では肥料をやらなくてもぶどうは収穫できています」と楠さん。草生栽培では、刈られた草は地中に返り、やがて微生物が分解して肥料となる。「自然の循環というものを大事にしたい」

気候風土にあった畑のつくり方
ぶどうの仕立て方

当時、須坂市で農業経営を始めるには下限面積5反歩の農地が必要でした。研修先の農家の勧めもあって、うち3反歩は巨峰の成園を借り受け、2反歩の遊休農地を開墾してワイン用ぶどうの苗を植えました。

「与えられた気候風土といった条件と、ぶどうの木とのバランスを考えて、どうやったら一番健康的でいいぶどうができるかということ常に考えています」。そして行きついたのが草生(そうせい)栽培でした。今では4ヘクタールある畑で、除草剤はまったく使っていないといいます。

「自然の循環を大事にしたいと考えています。刈られた草が地中に返り、それを微生物が分解して肥料にしてくれる。例えばカラスノエンドウとかクローバーとか、豆科の植物を増やしておけば窒素肥料はやらなくていい。ただ肥料や農薬をまったくゼロにしようという考え方ではなくて、木が健康的であるために必要であればやっています」

また楠さんの畑は、一般的とされるつくり方よりも株間(かぶま)や畝幅(うねはば)がゆったりとしています。そして決定的に違うのは、 高めに仕立てられたぶどうから新しく伸びた枝が上下に誘引されていること。

「キャノピー・ディビジョンといって、樹冠を分けようという考え方なんです。木のバランスを保つために芽かきはしない。でも葉っぱは重ならない。だから葉っぱ一枚一枚が十分に光合成をして、しかもつくったエネルギーが房によくたまるんです」

複雑で飲みごたえのある白
繊細でやさしい赤

やがて収穫されたぶどうを委託醸造して、ファースト・ヴィンテージ2006年のシャルドネとメルローができあがります。特に2009年のシャルドネは、長野県原産地呼称管理制度の官能審査会において審査員奨励賞に選ばれました。「うれしかったし、この地が間違いのないところだなと思いました」

そして2011年に醸造免許を取得して、念願のワイナリーを開設します。楠さんは「この土地なりのワインができればいい」、そのうえで自分の目指すワインのスタイルが見えてきたと言います。

「白は、日本食に合うワインを目指して『日滝原(ひたきはら)』というブレンドをつくっています。それだけでなく、実際につくってみると非常に複雑で飲みごたえのあるワインができることがわかったので、そういうタイプをつくろうと思っています」

日滝原とは、須坂市の地名でぶどう畑の広がる扇状地です。昔からおいしい果物の産地として知られています。セミヨンとソーヴィニヨン・ブランのブレンドは、楠わいなりー独自のもの。またシャルドネは濃縮感の強い風味が特徴です。

「赤に関しては、日照量の関係で、ガツンとくるようなビッグなワインを僕は求めてないので、それよりは飲んでほっとするようなワイン。Mercy(恵み)というか、慈悲という感じのスタイルかなと思ってるんです。繊細でやさしいタイプ。お母さんが赤ん坊の寝顔を見てるときみたいな、そういうやさしいワインです」

 

(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)

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畑と醸造担当の男性スタッフのほか、ショップを支える女性スタッフも。明るい店内には自社ワインがそろい、ワインにまつわる雑貨なども並ぶ

畑と醸造担当の男性スタッフのほか、ショップを支える女性スタッフも。明るい店内には自社ワインがそろい、ワインにまつわる雑貨なども並ぶ

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楠 茂幸(くすのき しげゆき)

1958(昭和33)年、須坂市生まれ。東北大学工学部卒業。海外勤務を含む20年ほどのサラリーマン生活の後、オーストラリアのアデレード大学院に留学してワイン醸造学とぶどう栽培学を学ぶ。帰国後の2004年に須坂市にてぶどう栽培開始。2011年にワイナリー開設。

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楠わいなりー株式会社

所在地 〒382-0033 長野県須坂市亀倉123-1
TEL 026-214-8568

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