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ワインのつくり手を訪ねて

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下條村Vol.64 FARM & CIDERY KANESHIGE(ファーム&サイダリーカネシゲ)[カネシゲ農園/株式会社 道]櫻井 隼人さん

最高品質のりんごを自分たちの手でハードサイダーに

長野県最南端の醸造所

長野県の南端、下伊那郡のほぼ中央に位置する下條村で、ハードサイダーをつくる農園があります。フランス発祥のシードルではなく、あえてアメリカで呼ばれるハードサイダーというのは、その由来がアメリカ・オレゴン州にあるから。そして目指すスタイルが、クラフトビール天国ともいわれるオレゴン州のポートランドにあるからです。

カネシゲ農園は、現在の園主である古田康尋(やすひろ)さんと弟の健詞(けんし)さんの祖父の代からりんご栽培をはじめました。そして今からおよそ50年前、先代の道寛さんが20歳のとき、アメリカの先進的な果樹栽培を学ぶため、単身渡米してオレゴン州の農家で1年間の修業をしました。

広大なりんご畑、合理的な栽培技術、そしてのびのびと楽しそうに働く人々の姿に刺激を受け、道寛さんは帰国後にカネシゲ農園を立ち上げました。そして果樹栽培だけでなく、ジュースづくりをはじめたのです。

2014年に道寛さんは亡くなりましたが、康尋さんが跡を継ぎ、さらにその歩を進めるために果樹の醸造をはじめることにしました。2015年10月、自園の果樹の加工、醸造を担う株式会社を設立し、社名は父の名から一文字取って「道」としました。代表は、康尋さんの高校の同級生であり、ともに果樹園で働いてきた櫻井隼人さんが務めます。

加工や出荷を行う建物。市田柿を干すスペースもある。醸造所は半地下にあり、一定の温度が保たれる

加工や出荷を行う建物。市田柿を干すスペースもある。醸造所は半地下にあり、一定の温度が保たれる

なんでも作り、直し、自分たちになりにカスタマイズしてしまう。醸造用のステンレスタンクにもナンバリングが

なんでも作り、直し、自分たちになりにカスタマイズしてしまう。醸造用のステンレスタンクにもナンバリングが

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眼下に伊那谷、遠く南アルプスを望む絶好の眺望

眼下に伊那谷、遠く南アルプスを望む絶好の眺望

良い土から良い果物が生まれる。温度管理やこまめに攪拌をしながら良質な堆肥をつくり、土作りに生かすのだ

良い土から良い果物が生まれる。温度管理やこまめに攪拌をしながら良質な堆肥をつくり、土作りに生かすのだ

味の良さとデザインの良さが魅力

櫻井さんは高校を卒業後、名古屋で服飾系のデザインを仕事にし、その後は東京の飲食店で働いていました。結婚して帰郷し、カネシゲ農園で働きはじめ、2015年の株式会社の設立に際して康尋さんからの誘いを受け、代表取締役に就任しました。醸造も櫻井さんが担います。

2016年7月には下條村が果実酒特区に認定されました。そして当時、まし野ワインの醸造を担当していた竹村剛さんの協力を得ながらジュースの加工場を醸造所として整えました。12月に酒造免許が下りるのを待って、年末さし迫っての初仕込みとなりました。

「カネシゲ農園」のりんごを「株式会社 道」が醸し、そして生まれたのが「FARM&CIDERY KANESHIGE」のブランド名を冠したハードサイダーです。

その魅力は、まずは材料の良さにあります。減農薬、有機肥料で栽培されたりんごの品質は高く、2018年に徳島で行われた「オーガニック・エコフェスタ」では、カネシゲ農園のふじが栄養価コンテストりんご部門で最優秀賞を受賞しています。農家が自負する最高品質のりんごでつくるハードサイダーは、農家だからこそ生み出せる味なのです。

そして、もうひとつの魅力が「カッコ良さ」。ロゴやラベルのデザインだけでなく、農園の看板や売店の意匠、エプロンやキャップなどオリジナルアイテムに、櫻井さんたちのセンスが大いに生かされています。そしてなにより古田兄弟と櫻井さんの男気のあるカッコ良さは、農家のイメージを覆し、ブランドの魅力となっています。

新規展開、さらにその先へ

2017年にファーストヴィンテージ2016をリリースしました。「FARMER’S CRAFT CIDER」は、ふじ単一で仕込んだフラッグシップとなる商品で、フルーティでキレのある味わい。「FARMER’S APPLE WINE」は甘口のスティルタイプです。

5月に飯田市で開催された「ナガノシードルコレクション」で初披露して以降、自主イベントを開催したり、山フェスに参加したり、ハードサイダーを介して街や人とのつながりを広げていきました。

2018年5月にはアメリカ・オレゴン州のポートランドへ視察に出かけ、先代がお世話になった農園を訪ねました。農家サイダリーを見学し、都市部の醸造設備メーカーやタップルームをめぐり、地元に根づくハードサイダー文化と関わる人々のマインドに触れ、大いなる刺激を受けます。奮起する思いは、きっと道寛さんの胸にあったものと同じでしょう。

11月から2019年は、怒涛のリリースが続きました。まずは早生品種のシナノレッドを使用した、まろやかな酸味が特徴の「RED」。続いてジョナサンとメイポールを使用した、やや甘口の「JAM」。ふじをベースにル・レクチェをブレンドした香り高い「BOB」。

早生のりんごをベースに桃で香りづけした、ほんのり甘めの「JOHN」。レーズンを加えてオーク樽で熟成させた、甘い香り漂う琥珀色の「JULIEN(ジュリアン)」。そしてブラッドオレンジの皮の苦味と柑橘が香り、ブルーベリーでアクセントをつけた「ZAVIERU(ザビエル)」。シーズナル商品も含めれば8種がラインナップしました。

2020年はいよいよクラフトビールに着手します。「果実酒というくくりではなく、ビールの分母の大きさに、りんごをのせてみたい」と櫻井さん。念頭にあるのはフルーツエールです。

「当初は地元の原料へのこだわりがあったけど、りんご本来の味にこだわり過ぎると何もできなくなっていく。進化しなければいけないし、よりおいしいものを作りたい。最初の思いから離れて良いし、むしろどんどんブレていこうと決めたんです」

先代、道寛さんの拓いた道の、さらにその先へ。「FARM&CIDERY KANESHIGE」は進展を続けます。


(取材・文/塚田結子  写真/平松マキ)
2020年3月12日記事掲載

キャップもオリジナル。農家のユニフォームであるつなぎにも、自分たちでペイントしてしまう

キャップもオリジナル。農家のユニフォームであるつなぎにも、自分たちでペイントしてしまう

加工施設の一角にある販売所。DIYで手直しし、醸造の工程をチョークアートで描いた

加工施設の一角にある販売所。DIYで手直しし、醸造の工程をチョークアートで描いた

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櫻井 隼人さん(さくらい はやと)

1984年生まれ、長野県下伊那郡下條村出身。2015年設立の「株式会社 道」の代表取締役に就任。カネシゲ農園の果樹を用いて加工、醸造を行う。2017年に「FARM & CIDERY KANESHIGE」としてのファーストビンテージをリリースした

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カネシゲ農園/株式会社 道

所在地 下伊那郡下條村睦沢7047-21
TEL 0260-27-1250
URL https://www.kaneshige.jp/

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