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ワインのつくり手を訪ねて

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安曇野市Vol.57 Le milieu(ル ミリュウ)塩瀬 豪さん/斎藤 翔さん

ふたりだからできる個性的かつ多様なワインづくり

2019年秋、本格的に仕込み開始

塩瀬 豪さんと斎藤 翔さん、ともに30歳だったふたりが合同会社「Le milieu(ル ミリュウ)」を設立したのが2018年3月のこと。安曇野市明科にある元JA支所の建物を改装して醸造設備を整え、同年11月に醸造免許を無事に取得しました。そして2019年秋、いよいよ本格的な醸造を開始しました。

「Le milieu(ル ミリュウ)」とは真ん中、中心の意味をもつフランス語です。小手先に走らず、ぶれずに自分たちのスタイルをまっすぐ貫くこと。そうやってできたワインが誰かの食卓の真ん中にあってほしい。そしてその人にとっての心に残る1本になるように。そんな思いが込められています。

ここ数年の長野県内における新規参入ワイナリーの傾向として、異業種からの転職あるいは定年後の人生としてワインづくりを選び、行政や民間が主催するワインアカデミーで学び、起業する人たちが多く見られます。

そうした動きとは異にして、ふたりは県内ワイナリーでワインメーカーとして働き、栽培と醸造に携わった後に起業しました。塩瀬さんは手がけたワインがコンクールで受賞し、斎藤さんはソムリエとしての勤務経験をもち、それぞれの経験を積んだうえでの独立でした。

そんなふたりのつくるワインがすでに注目を集めているのは当然のことでしょう。

そろえた設備は手動のバスケットプレスと除梗破砕機。圧搾も破砕も手回し、除梗は手作業。若さと体力で仕込みを乗り切る

そろえた設備は手動のバスケットプレスと除梗破砕機。圧搾も破砕も手回し、除梗は手作業。若さと体力で仕込みを乗り切る

2019年仕込みのシードルには摘果りんごを加え、さらに複雑な味わいを加えようと模索。銘柄は「SPARK  JOY(スパークジョイ)」

2019年仕込みのシードルには摘果りんごを加え、さらに複雑な味わいを加えようと模索。銘柄は「SPARK JOY(スパークジョイ)」

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会社設立時に作ったロゴ入りTシャツ。ふたりでアイデアを形にしていく。ワインについては果汁の段階からどう仕込んでいくか、互いの意見を出し合う

会社設立時に作ったロゴ入りTシャツ。ふたりでアイデアを形にしていく。ワインについては果汁の段階からどう仕込んでいくか、互いの意見を出し合う

塩瀬さん(右)と斎藤さん。生まれた年が一緒、星座も一緒、血液型も一緒。言いたいことはお互いやんわりと主張する

塩瀬さん(右)と斎藤さん。生まれた年が一緒、星座も一緒、血液型も一緒。言いたいことはお互いやんわりと主張する

それぞれの経験値を合わせ、ともに起業へ

塩瀬さんは小諸市の出身です。大学時代、海に魅せられて沖縄県へ渡り、ダイビングインストラクターになります。が、鼓膜が破れるケガを負い、夢なかばで帰郷。次なる仕事を模索するなかで社会学部に在籍していた学生時代に立ち返り、観光や文化に貢献する仕事を志します。そこで選んだのが醸造の道でした。

2008年に「あづみアップル」に入社し、栽培と醸造に携わり、広島市の酒類総合研究所でも学んで経験を重ねてきました。あづみアップルの代表銘柄であるソーヴィニヨン・ブランの醸造を任され、「日本ワインコンクール」(当時の「国産ワインコンクール」)での銀賞受賞を経験しました。

一方の齊藤さんは安曇野市三郷のご出身。地元の高校を卒業して大阪の大学へ進学しました。南アフリカへ留学したり、高知県で漁師見習いになったり、さまざまな経験をした後、帰郷して地元の飲食店に就職します。そこでソムリエ資格を取得しました。

ワインへの興味が募り、やがて斎藤さんは造り手を志します。そして「楠わいなりー」で3年間、「安曇野ワイナリー」で2年間、栽培から醸造まで携わり、一方で地元である安曇野市三郷地区と明科地区でぶどう栽培を開始しました。

ふたりは2016(平成28)年に知人を介して出会いました。明るく人懐っこい塩瀬さんは、ほかのワイナリーの先輩たちとも親交があり、ワインづくりに携わる幅広い世代とのつながりがありました。

そんな塩瀬さんについて斎藤さんは「みんなと仲良くて、うらやましいと思いました」。一方の斉藤さんは塩瀬さんについて「同じ年なのに、先を見据え、いずれ自分のワインつくりたいと考えていて、刺激を受けました」

同じ年齢で、奇しくも誕生日が近く、血液型も一緒。ふたりは親交を深め、やがてふたりで起業することを決意します。

ふたりだからできるワインづくり

メインの圃場は明科の天王原と呼ばれる地にあり、かつては桑畑でしたが、長い間放置されて木の生い茂る荒地となっていました。斎藤さんを含む地元有志により開墾されたのが2013(平成25)年のこと。

北アルプスの常念岳を正面に見据える西向きの斜面、10ヘクタールがワイン用ぶどうの畑となり、そのうち1.5ヘクタールがルミリュウの自社畑となりました。

栽培しているのはシャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ネッビオーロ、シラー。三郷の圃場にはゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリも植わります。ほかに契約農家から竜眼とリンゴも仕入れます。

2018年は醸造免許の取得が11月になったため、大町市のノーザン・アルプス・ヴィンヤードに醸造を委託し、シャルドネ、メルロ、竜眼を仕込み、「Polaris(ポラリス)」という銘柄でリリースしました(いずれもほどなく完売)。

自社での醸造は2019年が本格スタートとなります。すでに新酒の「Fes.(フェス)」シリーズからメルロー、ピノ・ノワール、シャルドネなど、そしてシードル「SPARK JOY(スパークジョイ)」をリリースしています。

その銘柄からも伝わってくるように、自分たちのワインを若い人にも飲んで欲しいという思いがあります。そして安曇野にワイン文化を根づかせ、いずれは後進を応援できるように力をつけたいと考えています。

目指すのは「フィネス」。つまりエレガントでバランスの取れたワインです。塩瀬さんは「おいしいワインを作りたい」とくり返し、「クリーンな味わい、そのうえで個性を表現できれば。決して汚染ではなく」と言葉を続けます。

それに同意しつつ斎藤さんは「自然派寄りのワインも作ってみたい」とつけ加えます。ふたりで意見を出し合って、まちがいのないワイン造りをしていく一方で、ふたりだからこそ広げられる幅があるのです。

かつて海を渡る人々は、北極星を基準として進むべき方向を判断しました。「飲み手が迷ったら飲んで欲しい」、そんな思いが「Polaris(ポラリス)」という銘柄に込められていますが、いつか彼らをワイン造りの指針とするような後進が続く−−そんな予感もするのです。


(取材・文/塚田結子  写真/長岡竜介)
2019年10月16日記事掲載

取材に訪れたのは8月下旬。ひと房ずつ丁寧に傘紙をかけてあった

取材に訪れたのは8月下旬。ひと房ずつ丁寧に傘紙をかけてあった

「Polaris(ポラリス)」は北極星のこと。2018年はシャルドネ、メルロー、竜眼をリリースした。2019年は仕込み中

「Polaris(ポラリス)」は北極星のこと。2018年はシャルドネ、メルロー、竜眼をリリースした。2019年は仕込み中

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塩瀬 豪さん(しおせ ごう)

1987年生まれ、小諸市出身。大学を中退して沖縄にわたり、ダイビングインストラクターになるが、負傷して帰郷。2008年、あづみアップル(安曇野市)に入社し、栽培から醸造まで携わる。2018年に独立し、ワイナリー設立。

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斎藤 翔さん(さいとう しょう)

1987年生まれ、安曇野市出身。大学卒業後、帰郷して地元の飲食店に勤務中、ソムリエ資格を取得。その後、楠わいなりー(須坂市)、安曇野ワイナリー(安曇野市)で勤務しつつ、三郷と明科でぶどう栽培を開始。2018年に塩瀬さんとともにワイナリー設立。

合同会社Le milieu(ル ミリュウ)

所在地 安曇野市明科七貴4671-1
TEL 0263-62-5507
URL https://le-milieu.co.jp/

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