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ワインのつくり手を訪ねて

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塩尻市Vol.55 シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー勝野 泰朗さん

桔梗ヶ原と片丘のテロワールをあらわすワイン

メルローの醸造に特化したガレージワイナリー

長野県産ワインの特筆すべき1本といえば、やはり「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー 1985」でしょう。メルローは、塩尻市桔梗ヶ原地区で契約農家の手によって1976年から栽培がはじまり、他の品種とブレンドして製品化されていました。

1985年の秋、メルローがひときわ優れた出来であったことから、はじめて単独で瓶詰めされました。その初リリース品が1989年、スロヴェニア(旧ユーゴスラビア)の首都リュブリアーナで開かれた国際ワインコンクールにて大金賞を受賞したのです。

2018年秋に封切りされた映画「ウスケボーイズ」では、このワインに感銘を受け、ワインづくりに邁進していく若者たちの姿が描かれました。また、当サイトのいくつかの特集記事のなかで、桔梗ヶ原にメルローが根づくまでの苦労について触れてきました。

2018年9月、シャトー・メルシャンの桔梗ヶ原ワイナリーが完成しました。ようやくこの地で育ったメルローが、山梨まで運ばれることなく、この地で醸されるようになったのです。

現在は、シャトー・メルシャンのアイコンシリーズである「桔梗ヶ原メルロー シグナチャー」、テロワールシリーズの「桔梗ヶ原メルロー」、ワイナリー限定発売の「桔梗ヶ原メルロー ロゼ」、この3種の醸造に特化したガレージワイナリーとして稼働しています。

ワイナリーは、1938年に大黒葡萄酒 塩尻工場としてつくられた建物を利用しています。外観は当時のまま。内部は近代的に整えられましたが、かつて使われた大樽が一部残され、往時の様子を伝えています。

半地下の空間は湿度や室温を一定に保ちやすく、そしてグラビティ・フローが可能です。「極力ポンプを通さず、ぶどうへの負荷をおさえることができます」と語るのは、ワイナリー長の勝野泰朗さんです。

大黒葡萄酒 塩尻工場としてつくられた建物は、1988年9月で生産休止して以降、そのまま残されていた。外観はそのまま。内部はむき出しだった木の梁や壁を覆い、醸造棟の排水設備なども新たにした

大黒葡萄酒 塩尻工場としてつくられた建物は、1988年9月で生産休止して以降、そのまま残されていた。外観はそのまま。内部はむき出しだった木の梁や壁を覆い、醸造棟の排水設備なども新たにした

ひっそりと残る看板は「大黒葡萄酒」から「オーシャン」に社名変更し、「三楽酒造」と合併して「三楽オーシャン」となった頃のもの。その後「三楽」「メルシャン」へと社名変更した

ひっそりと残る看板は「大黒葡萄酒」から「オーシャン」に社名変更し、「三楽酒造」と合併して「三楽オーシャン」となった頃のもの。その後「三楽」「メルシャン」へと社名変更した

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(写真上)1900年代当初から残された45の大樽のうち10樽を保存している。かつてはこの大樽でナイヤガラやコンコードの甘味葡萄酒を大量に生産していた

(写真上)1900年代当初から残された45の大樽のうち10樽を保存している。かつてはこの大樽でナイヤガラやコンコードの甘味葡萄酒を大量に生産していた

半地下の建物は醸造棟と貯蔵庫の2棟から成る。醸造棟には「セラードア」もあり、見学者向けの試飲やボトル販売をしている

半地下の建物は醸造棟と貯蔵庫の2棟から成る。醸造棟には「セラードア」もあり、見学者向けの試飲やボトル販売をしている

フランス銘醸地での修業を経て

勝野さんは2000年の入社以来、長年、桔梗ヶ原のぶどう栽培に携わってきました。転機となったのは35歳のとき。フランスへワインづくりの研修のため、留学することになったのです。

フランス語はまったくわからず、語学の勉強もしながら、ひたすらワインについて学ぶ日々が続きました。

「言葉すらわからないんですから、最初のホームステイ先では赤ちゃんになったような気分でしたよ」

自分の無力さを思い知るような苦い日々を乗り越えて、ボルドーやブルゴーニュなど、ワイン銘醸地で栽培から醸造までの研修を積みます。そのときの経験が、桔梗ヶ原で醸造がはじまった今、大いに役立っていると勝野さんは言います。

「なぜこの行程を踏むのか、なんのためにやっているのか。その理由が、本で読んだ知識としてではなく、経験からわかるんです」

勝野さんご自身は「スムーズなワインが好き」と言います。過度な抽出は行わず、エレガントでバランスの取れた味わいは、飲み飽きることがありません。

ヴィンヤードマネージャーとして、そしてワインメーカーとして、栽培から醸造までを一貫して手がけるようになった今、目指すワインを自らの手でつくり出す喜びもひとしおでしょう。

テロワールには人も関与する

塩尻は、10月中旬ともなれば、朝晩の冷え込みはきつくなります。発酵の際は「タンク内の発酵開始温度が大事」であり、マセラシオンがやさしく進行する「時間が大事」だと勝野さんは言います。「塩尻では、寒さが仕込みに関連させられる」。つまり寒冷地は栽培だけでなく、醸造にも都合がいいのです。

2015年には農業生産法人を立ち上げて、標高800メートルの片丘地区に新たな圃場を設けました。高齢化が進み、長年、メルシャンのワインづくりを支えてきた契約農家がやめてしまうことも多いなか、農地を集約し、法人として自社管理畑を引き継ぐことにしたのです。

15ヘクタールほどの広さとなった畑には、メルローを主体に、一部カベルネ・フランを植えています。ピノ・グリやゲヴュルツトラミネールなど、アルザス系品種の栽培も行い、高い標高の地にも適した品種を探っていく予定です。

「この地区でどのような品種のぶどうがうまく育つのか。試行錯誤しながら、この土地に合う、テロワールを表現できるようなぶどうを育てていきたい」と勝野さんは言います。そして「天気は変えられませんが、人の努力で変えられる部分はある。じつは、人もテロワールに関わっているんです」と言葉を続けます。

「ちょうど桔梗ヶ原の収穫が終わった頃が片丘の収穫期になると思います。順調に育てば、今年植えた樹が最初に収穫できるのは、おそらく3年後。2020 年になるでしょうか」

勝野さんのつくる桔梗ヶ原と片丘のメルローを飲み比べる日が、今から待ち遠してくてなりません。


(取材・文/塚田結子  写真/宮地晋之介)
2019年1月24日記事掲載

ワイナリーに併設する「箱庭ヴィンヤード」には、さまざまな品種が植わる

ワイナリーに併設する「箱庭ヴィンヤード」には、さまざまな品種が植わる

年数回開催のワイナリーツアーは要予約。勝野さんの案内のもと、箱庭ヴィンヤード、樽庫、醸造棟を見学し、3種のワインの試飲ができる。くわしくはホームページを参照

年数回開催のワイナリーツアーは要予約。勝野さんの案内のもと、箱庭ヴィンヤード、樽庫、醸造棟を見学し、3種のワインの試飲ができる。くわしくはホームページを参照

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勝野 泰朗さん(かつの やすあき)

1973年生まれ、福島県出身。東北大学大学院農学研究科修了後、2000年メルシャン株式会社に就職。2008年に渡仏し、ボルドーやブルゴーニュでの研修を経て、ボルドー大学でのDNO(フランス国家認定ワイン醸造士、エノログ)、DUAD(利き酒に関する資格)を取得。2013年に帰国。2018年から桔梗ヶ原ワイナリーのワイナリー長として栽培から醸造まですべてに関わる。

看板
シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー

所在地 長野県塩尻市宗賀1298-80
TEL 
URL http://www.chateaumercian.com

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