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ワインのつくり手を訪ねて

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岡谷市Vol.51 Collabo Vineyard(コラボヴィンヤード )三澤 智行さん

岡谷市ではじまったぶどう栽培 ワインづくりと福祉で地元を元気に

地元、岡谷市ではじめたぶどう栽培

諏訪湖の釜口水門から流れ出た天竜川が南へと流路を定めるあたり。川の右岸にあたる岡谷市川岸に、三澤智行さんの生家があります。「天竜川に流れ込む小さな支流がいくつもあって、うちの横を流れるのが小洞沢(こぼらさわ)です」

自宅から歩いてすぐの耕作放棄地を借り受けてぶどう栽培をはじめるにあたり、自社農園の名称を考えた三澤さんの念頭には「コボラヴィンヤード」という名前がありました。そこから文字を入れ替えて、「協力」などの意味をもつCollaboration(コラボレーション)を略した「コラボ」を冠することにしました。

2013年にシャルドネとメルローを合わせて40本植え、翌年には耕作地を増やしてカベルネ・ソーヴィニヨンを植えました。そして同年、長野県が主催するワイン生産アカデミーの受講生となり、ぶどう栽培から醸造までを学びました。

2015年には、自宅から急坂を上った場所に新たな畑を拓きました。木が生い茂り、傾斜はきつく、再生不能農地とされていたその場所を開墾し、ヤマソービニオンを植えました。

「土壌や気候を調べて適地をさがす方もいるなか、私がここをぶどう畑にしたのは、家から近いというのが理由です。栽培に適しているかはわかりません」

学びと実践を同時進行しながら、今ではピノ・グリ、シラー、ピノ・ノワール、そしてマスカットベーリーAの栽培もはじめています。

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上が、最初にぶどうを植えた自宅から徒歩数分の畑。下が、2015年にヤマソービニオンを植えた畑。急傾斜に生い茂る木を伐採し、開墾した。標高は800メートルを超す

上が、最初にぶどうを植えた自宅から徒歩数分の畑。下が、2015年にヤマソービニオンを植えた畑。急傾斜に生い茂る木を伐採し、開墾した。標高は800メートルを超す

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住宅街の一角にある自宅にヴィンヤードの看板を掲げた。ワインの販売は玄関先で行う。ゆくゆくは地元の酒店で買えるようにする

住宅街の一角にある自宅にヴィンヤードの看板を掲げた。ワインの販売は玄関先で行う。ゆくゆくは地元の酒店で買えるようにする

転機は突然に。そして娘のために

三澤さんは、ワインづくりはもちろん農業経験もないまま、ぶどう栽培をはじめました。そのきっかけは不意に訪れました。

45歳の時、勤務先の工場が生産縮小に伴い閉鎖することになったのです。管理職として残務処理や社員の転職に腐心しながら、三澤さんは自身の今後に思いをめぐらします。

「それまで会社ひと筋で、4人の子どものことも家のことも妻に任せきりでした。一番下の長女はダウン症なんですが、時間ができて、小学校の先生と親の集まりに参加するようになったんです」

そこで養護学校やデイサービスへ通う子どもの送迎に困っているという親の声を聞き、三澤さんは一念発起して介護の資格を取り、福祉タクシーを起業します。

あわせて娘さんの将来の就労の場をつくりたいという思いも芽生えていました。
「模索するなかで長野県のワイン振興を知り、いろいろ教えてもらったり、自分でも調べているうちにおもしろくなってきました。ワインづくりは、ぶどう栽培から加工や販売まで一貫して行えます。娘も農作業やラベル貼り、梱包など、何かに興味をもてるのではないかと思って、まずはぶどう栽培をはじめました」

中学3年生の娘さんは、今年はぶどうの収穫を手伝ってくれたのだと三澤さんは目を細めます。「ダウン症の子には、天性の素直さと純粋さがあります。それを大切にしながら、不自由さを補っていきたいです」

夢は広がり「いずれは醸造を」

2016年に収穫したメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンは伊那ワイン工房で初仕込みされ、翌年に「カベルネ・メルロー」として40本が販売されました。地元紙で紹介されたこともあって、あっという間に完売となりました。

2018年は地元産のワインを求める多くの要望に応えるため、ハーフボトルで「カベルネ・メルロー」120本と「シャルドネ」40本、さらに岡谷市産のりんごを醸したシードルをフルボトルで190本を販売しました。

その出来栄えは、「赤ワインは、昨年よりメルローの比率を増やしてまろやかに。白ワインは、若木らしいフレッシュなさわやかさ」に仕上がったとのこと。今年も、あっという間に完売となりました。

2019年はヤマソービニオンも加え、いずれもフルボトルで販売できそうだと三澤さんは言います。

三澤さんの活動を知り、徐々に整っていくぶどう畑を見て、近隣の人からは「毎年、畑がきれいになっていくね」と声がかかります。また、福祉タクシーをはじめてわかったことは、高齢者の需要が多いことでした。

そして三澤さんは、新たな夢を抱くようになりました。障がいをもつ人だけでなく、高齢者も、地域の人も、みんなが集まれるような場を作りたい。
「散歩がてら畑を見たり、時には収穫を手伝っていただいたり、ワインづくりで地域を盛り上げることができるのでは。いずれは醸造も手がけたいと思っています」
自身の仕事を見つめなおし、子どもの幸せを願う気持ちは、地域とそこに住む人を思いやることにつながりました。

ワインづくりをとおしてできること。それは、自分にないもの、誰かが必要とするものを、それぞれが補い合いながら生きていくこと。コラボヴィンヤードという名の意味が改めて胸にしみます。

(取材・文/塚田結子  写真/宮地晋之介)

畑に立つ三澤さん。大学生までスピードスケートを続けた体躯が、急傾斜の畑仕事を支える

畑に立つ三澤さん。大学生までスピードスケートを続けた体躯が、急傾斜の畑仕事を支える

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三澤 智行さん(みさわともゆき)

1962年、岡谷市生まれ。2012年に「福祉タクシーともゆき」を起業。2013年からワイン用ぶどうの栽培を開始。2014年、長野県が主催するワイン生産アカデミーを受講。2017年に「カベルネ・メルロー」を初リリースした

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