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ワインのつくり手を訪ねて

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伊那市vol.36 伊那ワイン工房 村田 純

ぶどう畑を持たない小さなワイナリー、伊那谷に誕生

外国のお手本ワインに近づけることではなく

2014年9月、伊那谷に夫婦2人で営む小さなワイナリーが誕生しました。長年、ワイン醸造を手掛け、信州まし野ワインから独立した村田純さんが開業した「伊那ワイン工房」です。
「ぶどう畑はありませんし、基本的に自分ひとりで醸造しますから、ワイナリーのイメージとはちょっと違うかもしれませんね。それで、ワイン工房と名づけました」

「地元で収穫したぶどうやリンゴを加工して、地元で味わうのがワインの原点」と考える村田さんは、委託醸造は原料100キロという小さなロットから引き受けます。
「庭にぶどうの木が3本あったら、ワインがつくれます。誰が飲むのか、どんな時に飲むのか、お好みもよく聞いて、その人にあったワインに仕上げることができます。お手本とされる外国のワインに近づけることよりも、地元の人がおいしいと感じるワインを作りたいんです」

地元の少量の材料でも、その持ち味や農家の思いを活かすことができれば、ワインを食卓で楽しむ文化を根づかせることができ、その土地ならではの希少性から農家の収入につながる可能性も広がります。
たとえば、伊那市から委託醸造している「山紫(やまむらさき)」。市が信州大学農学部と共同開発した新品種のヤマブドウを使ったワインです。同学部と市内の農家3軒で栽培しており、2015年産の収量は約820キロ。2013年の試験醸造以来、年を追って香りも深まり、抗酸化物質のポリフェノールを多く含むことでも注目されています。伊那市では、特産品に育てようと期待を込めています。

伊那市のバーや飲食店ら有志との連携も始まりました。2015年6月には、連携店舗でのみ提供するシードルを発売しました。
「地元のりんごで、飲食店の経営者の方々の意見を聞きながら、加盟店でなければ飲めないシードルをつくりました。ワインの出口と入り口、生産と販売を結びつけた形です」

ワインボトルをデザインしたロゴがおしゃれ

ワインボトルをデザインしたロゴがおしゃれ

長く地域に親しまれてきた医院の建物を改装。建物内に医院の面影が残る

長く地域に親しまれてきた医院の建物を改装。建物内に医院の面影が残る

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作品番号を冠したオリジナルワイン

伊那谷は日照時間が長く、水はけのよい斜面に恵まれ、ぶどう栽培の適地です。村田さんは自分でも栽培を手掛けないのでしょうか。

「若いころ、栽培に携わって気付いたことですが、同じ季節にひとりでできることは限られています。栽培は専門の方々にお任せするべきだと思いました。ワイン工房として、農家が大切に育てたぶどうをていねいに仕込むことに専念します」

伊那ワイン工房オリジナルのワインには「OP.1」などの通し番号がつけられています。数百本単位の少量生産のワインにも同様です。音楽作品などにつけられている作品番号(opus)であり、つくり手としての村田さんの思いがこもっています。

ナイアガラワインにチャンスあり

「国産ワインの質が上がってきて、世界的に評価の高いワインも出てきました。それはすばらしいことですが、本来、ワインづくりは皆が同じ方向を目指さなくてもいい。もっと地域性や個性があってもいいのではないでしょうか」

たとえば、2015年10月発売のOP.6「2014ナイアガラのワインやや甘口 」とOP.7 「2015ナイアガラ辛口」。どちらも塩尻市産のナイアガラからつくった白ワインです。ナイアガラは長野県の代表的なぶどう品種で、生食用やジュース用として広く栽培され、芳醇な香りが特徴です。しかし、ワインとなるとこの香りの好みは分かれ、「ナイアガラのワインなんて」といわれがち。欧州系ワイン専用品種を本流と考える方々には、ナイアガラはあまり好まれません。

「私もワイン造りを始めたころは、ナイアガラでワインをつくるのは嫌で仕方がなかったのですが、発想を変えれば、他国にはない独自のワインカテゴリーといえます。長野県でワインをつくるには、真剣に取り組むべきチャンス品種だと思うようになりました」

「ナイアガラで辛口のワインをつくる、これがひとつのテーマ」という村田さんが、今年2015年に手に入れたのは、まだ少し青いナイアガラ。香りがまだ開かず、酸味が高く、生食用としては未熟の状態です。発酵が終わりオリとの分離が始まったころに、早々に瓶詰しました。OP.7はナイアガラ香は穏やかで、酸がとがったフレッシュな辛口に仕上がりました。

一方、OP.6の2014年産は、完熟で収穫し、タンクで半年ほど貯蔵。この品種にしては味に深みが出て、上品な甘さと強めのナイアガラ香のバランスがよく取れています。地元での夏祭りなどで評判が良かったので、できれば製造量を増やして安価で親しみやすい定番商品に育てたいと言います。
対照的なワインの同時発売に、村田さんのナイアガラへの意気込みが伝わってきました。

 

(取材・文/平尾朋子  写真/平松マキ)

工房内では、シュワシュワとかすかな音を立てて発酵中。ここで村田さんは、果汁と対話するようにワインを醸していく

工房内では、シュワシュワとかすかな音を立てて発酵中。ここで村田さんは、果汁と対話するようにワインを醸していく

タンクは管理しやすい300リットルのものが多い。100リットルから醸造を受託

タンクは管理しやすい300リットルのものが多い。100リットルから醸造を受託

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村田 純(むらた じゅん)

1961年松本市出身。北海道大学薬学部卒。就職先の医療系企業でワインに出会い、山梨大学で企業派遣研究員として醸造を学ぶ。安曇野ワイン、山辺ワイナリーの立ち上げなどを経て、専務として信州まし野ワイナリーへ。伊那ワイン工房を独立・開業し、2014年9月、ワイン製造免許取得。「独立したことで、自分がやりたかったワインづくりができるようになった」と意欲的。

伊那ワイン工房

所在地 長野県伊那市美篶5795
TEL 0265-98-6728
URL http://inawine.net/

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